第15話 能力発動

「この変態ー‼‼」


 彼女の怒り声とともに、俺に向けて、バレーボール程の火球が勢いよく飛んでくる。


「うおいっ⁉」


 慌てて体をそらした。ぎりかわせた!


 火球は俺を通り過ぎ、後ろにある城壁にぶち当たった。

 

 ボシュウ‼


 俺の耳に焼け焦げる音が聞こえる。おいおいまじかよ⁉


「変態‼ 変態‼ 変態ー‼」


 変態と罵られるたびに繰り出される火球。


「ちょっ⁉ まって⁉ いひゃあー⁉」


 俺はなんとか必死に避ける。最後の火球とかは俺の頬をかすめた。慌てて頬を片手

でさする。火傷してない⁉ してないよね⁉ 


 手に伝わる張りのあるお肌の感覚にホッとする。よかった……、ほんとよかった。

 涙目になりながら両手でそっと自分の頬を労わっていたら、紅蓮髪の美少女が苛立った声をあげる。


「なにキモいことしてんのよ! あと避けるな変態‼」

「きもいとか言うなよ⁉ 頬をかすったんだから! あと避けるわそんなもん‼ 当たったら火傷じゃすまんだろうが‼」


 俺の訴えに、紅蓮髪の美少女は苛立った顔立ちから少し考える様子を見せた。そして、ムッとした顔で俺をねめつける。


「そうね……、ちょっとやりすぎたかも」

「えっ?」


 彼女が少しだけ穏やかな一面をみせる。こ、これは……和解のチャンス‼

 俺は最新の注意を払いながら言葉を紡ぐ。


「こ、ここはお互い、少し冷静になって、話し合いを―」

「火傷程度ですむように調整してあげるわ、この変態。あと狙うのは足だけにしてあげる。動けないようにしたその後に……、たっぷりと話し合いをしてあげようじゃないの、この変態‼」

「それは話し合いじゃなくて確実に尋問だろ⁉ いいっ⁉」


 さっきより小ぶりの火球が次々と俺の足元めがけて飛んでくる。


「ちょっ⁉ うおいっ⁉」


 必死に両足をジタバタ動かし火球を避ける。

 だが慣れない動きはそう続かなかった。


「わわっ⁉」


 俺は自分の足にもつれ、倒れこむ。

 慌てて彼女に言う。


「ちょっと待っ―、」


 俺の足に火球が見事に命中した。スーツのパンツが一気に燃えて、黒い煙がふすふすと出ていた。


「ぎゃああああ⁉」


 も、もう終わりだ!! 俺の両足が黒焦げに!!


「やっと大人しくなったわね」


 紅蓮髪の美少女がニヤリと笑う。悪魔かこいつ⁉


「こ、こんなやり方あるか⁉ めちゃくちゃだろ‼」

「ちゃんと加減してるわよ」

「そんなわけあるか⁉ 見ろよ!! この俺の焦げた両足を!!」


 俺は左手で両足を指し示した。そこには、


「「えっ?」」


 俺と彼女の声がシンクロする。


 そこには、キレイな肌色をした俺の両足があった。


 俺は目をパチクリさせる。スーツのパンツだけが燃えて、俺の素足があらわになったこの状態。俺は左手を伸ばし、自分の足に触れる。手に伝わる張りのあるお肌の感覚に、とりあえず安堵のため息をつく。そのとき俺はある違和感に気付いた。


 スッと滑らかな肌触り。


 まっ、まさか⁉ 


 俺は自分の足を凝視し、驚愕する。


 す、すね毛がない⁉


 脱毛したかのごとく、すべすべキレイな自分のおみ足に目をみはるばかりだった。

 これっぽちもない。割と毛深かった俺のすね毛が‼ まさかこれって、すね毛だけが燃えたのか? しかし何で、すね毛だけが燃えて、俺の両足は無事なんだ?


 ボン。


「いやああああああああ⁉」


 突然俺の足にまた小さな火球が命中する。両足をジタバタしていると、紅蓮髪の美少女が軽蔑するような声をあげる。


「自分の足をなに優しく撫でてんのよ⁉ ほんとキモい‼ この変態‼」

「だからって仕打ちがひどすぎるだろ⁉」


 今度はさすがにやばい⁉ って、あ、あれ? 


 両足の火が消えると、そこにはキレイな肌色の俺の素足。


「なっ⁉」


 彼女は驚きの声をあげる。俺はこの不思議な現象に呆気に取られるばかり。そういや熱さもさほど感じていない。これって一体どういう事だ? ん?


 俺の視界の右下に、小さなウインドウみたいなのが出ていた。


『異世界保険、発動中』


「異世界保険? って、なんだ?」


 そう呟いた時だった。


 俺の目の前に大きめのウインドウが開いた。

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