第14話 再会

「ちょ、いや、ぶ、ぶつかる!?」


 ドドドン‼‼ ガラガラガラガラ‼‼ 


 工事現場のど派手な解体音みたいに大きな音を響かせ、俺は光の球体に包まれた状態で城壁に激突した。

 俺の視界には灰色の煙が盛大に舞っていた。大型ビルを爆弾で破壊したかのような、視界を遮る灰色の煙。心臓はバクバクと大きな鼓動を打ち、その振動に体が共鳴する。浅く荒い呼吸を何度も繰り返していた。


「ごほっ! ごほっ! お、お、おれ生きてる⁉ 生きてるの俺は⁉」


『無事に到着しました』

 

 俺の目の前に、そう書かれたウインドウが表示された。俺は、怒りに体を震わせながら叫んだ。


「こ、これのどこがっ‼ 無事‼ と、言えるのか教えてほしいですけどね⁉」


 声を荒げていると、辺りを覆っていた灰色の煙が、掃除機に吸われるかのように一定方向に流れていく。

 背中越しに涼しい風を感じる。

 視線を後ろにやると、大きな丸い穴が飛び込んできた。俺が包まれていた光の球体がぶち抜いた大穴。

 その大穴の先には広大な平原が見える。大きな壁穴から俺がいる所までの床が、まるで丸い彫刻刀でえぐったかのようになっていた。灰色の煙はその壁穴からどんどん流れていき、周りの状況があらわになってくる。

 大小の城壁の破片が床を始め、至る所に散らばっている。横倒しになったアンティーク調の白いベッドに、城壁の大きめな破片で真っ二つに荒々しく割られた木目調のテーブル、カップや小皿と思われる陶器の破片等々。


 もしやここって、城に住んでいる誰かの部屋?


 家に泥棒が入って、ひっちゃかめっちゃか荒らされた、というレベル以上の惨状に思わず乾いた笑いが出る。


「ははは……、や、やばいよな、これって」


 そう呟きながら上半身を起こそうと、床に手を付いたとき何かに触れた。


 ん?


 何か布のような感覚。


 自然と手に取り、目に見える位置に持っていく。


 ピンク色をした、ハンカチ?


 ハラッと無意識にその布を広げた。小振りの三角形をした、いいっ!?


 はらり、と全貌を現した、三角形のピンクの布から眼が離せない。額からスッと冷や汗が流れる。

 

こ、これは、


「し、下着!?」


「な、なによこれ……」


「へっ!?」


 俺の耳が、女性の小さな声を捉える。慌てて上半身を起こし、両膝を床につけると同時に声のした方へ振り向いた。


「あっ」


 思わず、俺は息を飲む。

 

 紅蓮色の艶やかで鮮やかな髪をした、美少女がそこに立ちすくんでいた。巨大なオーガを一瞬にして葬り去った、あの小柄な少女と同じ髪色。


 俺は彼女の顔をまじまじと見つめる。


 凛とした顔立ち。大人っぽさを感じるが、子犬のような大きく丸い瞳が彼女に幼い印象を与える。


 彼女と目が合う。


 赤く透きとおった、ルビーのような瞳に見つめられ、視線が釘付けになる。


 すると急に彼女の目が鋭い眼つきに変わっていき俺を睨みつける。


 えっ⁉ いやちょっと⁉ 一体何が、あっ。

 

 今さらながら気付いた。


 そう、彼女が……、バスタオルを巻いている姿にだ!!


 俺の視線が、意識と無関係に、勝手にローアングル気味になる。

 白いバスタオルは膝丈までで、そこからは、張りのあるキレイで透きとおった白い素肌の足があらわになっている。

 

 や、やば!? 


 思わず視線を上に上げた。


 すると、その先には、つつましい膨らみのある胸元に、小さな谷間が。バスタオルにあらかた隠れているとはいえ、この光景は非常にまずい。


 彼女の、紅蓮髪の少女の顔を、恐る恐るうかがうと、


「いっ!?」


 とてつもない鋭い眼つきで俺を睨んでいた。口元はピクピクと引きつり、頬を真っ赤に染めている。


 やばい……。完全に、やばいってこれ⁉ 

 

「あ、あの、こ、これにはふ、深い訳がありまして―――」


「だ・ま・れッ」


 俺は声に詰まった。紅蓮髪の少女は鬼のような、いや、オーガのような怖い形相で俺をねめつけてくる。か、体が金縛りにあったみたいに動かん!! 恐怖で!!


 紅蓮髪の少女が、片手を上に上げた。その上に、火球が出現する。


「なっ!? お、おいおい!? ちょ、ちょっと待て! は、話を聞いてくれ!!」


 完全に俺に当てる気だろ!? し、死んじゃうから!!


 俺は両手を前にかざし、ストップ! ストップ! と必死にジェスチャーを示した。だが、それが余計火に油を注ぐ事になった。


 ひらり、ひらり、と右手に握りしめた、ピンクのパンツが舞う。


 紅蓮髪の少女の瞳が、いっそう鋭さをました。もちろん、頬の赤みも。


「なっ!? なっ!? なにやって……!? つっううううう!?!?!?」

「うおっ!? ち、違う!? こ、これは、ワザとじゃないよ!?」


「だ・ま・れッ!!」


 で、ですよね~!


「か、覚悟は出来てるんでしょうね……、こ、こ―」


 彼女は急にピタッと言葉を止める。すうーと大きく息を吸い込んだ後、真っ赤な顔で俺に怒鳴り声をあげた。


「この変態ー‼‼」

「ですよねー‼‼」


 彼女はオーガーのような形相で、俺めがけて、火球をはなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る