第4話 不思議な共同生活

 洞窟に戻る。

 3人もついてくる。



 ここは安全だとは思うんだけど、部屋全体が死と諦めの空気というか辛気臭い。

 これどうにかならんかな。



 そもそも、この洞窟って構造がヘンなんだ。


 入り口が岩の裂け目、天然に見える。正面から見ないと奥に続くようには見えない。


 通路は入り口から奥にまっすぐ伸びて、突き当たりに大部屋。

 地図を描いたらフライパン。


 人工的なようで、それでいて坑道のような人為的な気配も無い。




 まあ考えても仕方ないか。

 大部屋の入り口近くに腰を下ろす。


 ここに居つくかどうかは明日になってから考えよう。



 部屋の入り口の手前で固まってた3人が引き上げていく気配を感じた。

 気にせず、さっき食べてた果実を胃から口の中に戻し、もぐもぐタイム。


 これ繰り返してたら食事いらないんじゃないかな。

 自分の体なのによくわからないな。




 少し落ち着いて、目を閉じていると3人?が帰ってきた。


 騒がしく喋りながらとか派手な足音立ててるとかでもないのに、洞窟の入り口あたりから気配が分かっていた。


 もう完全に陽は落ちてるから移動もままならないだろうし、敵意はなさそうだから静観する。


 エルフ?が一人で近づいてきて俺の膝元になにか果物を置いてくれた。



「ありがとう」


 まあ牛の鳴き声にしか聞こえないだろうが一応伝えて、その果物を目の高さに掲げてから口にする。


 その果物はねっとりと甘かった。

 バナナを潰して同量の砂糖を混ぜたような感じ。


 日本人基準だとはっきり言っておいしくないが、甘さ・糖分すなわちエネルギー、みたいな感じで体が受け入れる。


 それにしても甘いな。甘すぎて喉が渇く。



 しばし、もぐもぐタイム。




 女の子隊は部屋の片隅で身を寄せ合って休んでいる。尊い。


 とりあえず朝まで寝ようと目を閉じる。


 また、お客さんだ。

 自分がこの洞窟の主というわけでもないんだから「お客さん」というのもあれなんだが。


 敵意も迷いもなく奥に、この広場に一直線に向かってくる。

 こんな相手、ひとりしかいない。



・・・やっぱり。


 お犬様がドヤ顔で帰ってきましたよ。


 結構立派な大きさのイノシシを、まるでウサギやニワトリのように気軽に咥えておみやげに。


 

 座ってる俺の前に、ドン! と置いてくれちゃってるが、これどうすりゃいいのよ?


 ドヤ顔なんかむかつくな。わしわしと強めに撫でてやる。




 これどうすりゃいいのよ?(2回目)


 斧の刃先でイノシシの腹をかっさばく。案外切れ味いい。

 自分で殺してないからか、生き物に刃を入れる忌避感はそんなに無い。


 まな板に乗らない大きさの魚を捌いたことがある、『ことがある』レベルの解体技術だけどなんとかなるもんだ。


 まずは壷抜き、内臓を引き抜く。

 お犬様が欲しそうにこちらを見ている。


 腸っぽいとこだけ避けて、お犬様に差し上げる。

 ちょっと目に付いたので、レバー片方だけつまみぐい。

 野生の豚(猪)の生肉だけど気にしない。うまい!

 塩とごま油と、あとビールがあれば最高なんだが。


 ハツ(心臓)は譲ってやるぜ!




 皮は結構きれいに剥げる。みかん剥くより簡単かも。力は必要だがバナナレベル。

 後ろ足、片足10kgレベルの塊(※太郎さんのイメージ)を厚切りステーキに切り分けていく。斧の刃の切れ味だと厚み5cmが限界か。



 これを焼きたいんだけど、どうにかして火を起こせないかな。

 お犬様とかエルフ様なら魔法でやっちゃってくれそうなんだけど、今のところ意思疎通が出来てないからなあ。


どげんかせにゃおえんどうにかしなきゃ」とか考えてると、なんとなく、なんとかなりそうな気がした。


 喉の奥に力を溜める。

「火炎ブレス」じゃないけど「炎の痰・ツバ」的なものが出そう。


「おぇ、ぺっ」と前に吐き出す。

 まぶしい。照らされた顔が熱い。


 炎というけど燃焼しているわけではなく、エネルギーの塊が熱に替わっていってるように見える。

 洞窟内でも一酸化炭素中毒の心配は無いね。

 熱以外に煙や臭いも全く無いというだけで、それ以上の根拠が無い直感だけど。



 そのへんの石をひとつ置いて、斧の刃先を炎にかぶせる。

 猪肉を一切れ置くと、じゅっといい音がして焼き色がつく。


 斧刃を鉄板にしてステーキを焼く大作戦、大成功だ。


 1枚ミディアムレアを狙って焼き上げる。手掴みでひっくり返すの熱いかと思ってちょっとビビッていたけど、なんとかなるもんだ。


 週刊少年マンガ雑誌サイズの肉を半分口に含む。うまい!

 もぐもぐタイムが長くなるなと思って残りの半分もいっしょに口に入れてしまう。



 もぐもぐしながら次の肉を焼く。

 女の子へのおすそわけ用だから、赤い部分が残らないようにミディアム狙いのウェルダンでもいい焼きすぎなラインを目指す。


 いい感じに焼けたと思うので、猪の皮をお皿にして1枚乗せて女の子ズのほうへ。

 警戒はされてないけど手渡しできるほど心の距離は近くないと思う。


 手前3歩、2mぐらいのとこに皮皿のステーキを置いて戻る。



 もう1枚、お犬様のために焼いてあげる。

 火加減の調整なんてできないので、ほんの数分で斧刃がすごい高温になってたみたい。

 片面1秒、裏面5秒でいい焼き目がついたのでお犬様に献上する。


 つまんで鼻先に持っていくと、ぱくっとひと口で食べちゃった。

 何回噛んだかカウントできないぐらいの早業で飲み込んじゃった。


 いいぜ、肉はまだまだある。

 生肉も足元に並べてあげているが、炙った肉のほうがお好みみたい。



 犬と戯れていると犬の人が皮皿を持って寄ってきた。おかわりかな?

 もう1枚焼いてあげる。たんとおあがり。




 こんな感じで、言葉を交わさない不思議な共同生活が始まったのだった。

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