第3話 洞窟の奥で見たもの

 崖の裂け目。

 自然に発生したようなその入り口から奥へ入ると、狭い廊下のような通路。


 いや、自分が馬鹿クソでっかいだけで幅も高さも2mほど、人が歩くには十分。

 少し腰を落として進んでいく。


 そういえば真っ暗なはずだけど、夜目は効くらしい。ごく自然に暗い通路が見えている。

 夜中に目が覚めて電気つけずにトイレまで行くぐらいの感覚?



 ほぼまっすぐな通路を30mほど進むと、その先はちょっとした広間になっていて・・・


・・・中はひどい有様だった。





 壁から伸びた鎖につながれた、人、獣、亜人?

 そして、生きていたモノ・・・



 元の世界では見たことの無い大きさの黒犬が警戒して「グルル・・・」と唸るが、立ち上がる力も残ってないらしい。


 何ができるわけでもないけど、首輪を外すか鎖を切るぐらいはできるんじゃないか。


 首輪がどうなってるのか調べようと触ったら途端に力が抜けた。

 なにか体力を持っていかれる感覚。


 まあこれぐらいならなんとかなるかな、と。

 首輪の隙間に両手の指を入れて引きちぎるように広げる。力を入れた分に比例して持っていかれるが、根拠は無いけど勝てそうな。


 突然首輪が光り、「パキイィィィン!」と澄んだいい金属音が響いた。

 引きちぎろうと力を入れた場所とは関係ない箇所から壊れ、ふたつに割れた。




 黒くて大きい犬?は上半身を起こすと体全体が青白く光った。

 首や背中や横腹などにいくつか、特に強く光が集まる箇所がある。

 怪我の治療魔法を使ったのだろうか。


 その傷の数の多さ、光の強さから想像してしまう傷の深さから、この子が捕まったときの戦闘の激しさが容易に想像できてしまう。


 その中でも特に後ろの両脚が強く光る。

 夕暮れ時の洞窟内というところを差し置いても、太陽を直接睨みつけるような眩しさ。

 まるで光が質量を持っているような・・・


 って、光がまとまって後ろ脚の形に固まった、ように見えた。

 もしかして部位欠損の回復?



 お犬様は立ち上がると、一度立ち止まって振り返り、洞窟の外に出ていった。





 さて、あとは。


 人間サイズの拘束具の隙間に指入れて引きちぎるのはさすがに難しい。

 指2本づつ入れるとそれだけでいっぱいいっぱいぐらいの輪っかだからなあ。


 握り潰さないように力を込める。自分を怖がってる顔をダイレクトに見るのはなんか傷つくなあ。お犬様相手だとあんまりわからなかったけど。


 わりと簡単に吸収しきれない力が溢れて拘束具が壊れる。

 両手両足はそういうギミックが入ってなくてただの物理。そっちのほうが厄介だわ。

 このでかい手指ではどうにもならなそうなので鎖を引きちぎることにした。



 助けることができたのはエルフ?と犬獣人?と2足歩行の猫?

 全員女性で美人さんだけど、そこは気にするところじゃない。


 エルフっぽいのは笹かまみたいな大きい耳と、少々やつれても輝きを失わないモデルのような容姿。180cmぐらい。

 腰の位置なんてデッサンおかしいんじゃないかぐらい高い。


 犬獣人は人間顔で犬の耳。犬の耳かどうかはケモナーじゃないからわからないけど、雰囲気がたぶん犬。

 本人に聞かないとわからないけど、キツネやタヌキではないと勝手な判断。

 身長はエルフの肩の高さ、150cmぐらい。


 猫の人は猫顔。チョッキと短パン着てるだけで服装で性別判断できない感じのはずだけど、根拠は無いが間違いなく美人さん。

 人の顔してたら好みで細かく判別してしまうけど、お猫様はどんな顔でもかわいい(真理)。

 身長120cmぐらい?犬獣人と並べると頭ひとつ低いってところ。



 懐いてくれればちょっとだけ嬉しいけど、そこから先はどうにもならないしなあ。




 3人は出口近くに固まっている。仲間?が解放されるのを見ていた感じだけど、生きてそうだった全員を解放しても動かない。


 お犬様が洞窟の外をうろうろしていて出られないのかと、ちょっと解放の順序について後悔と反省したけど、そういうのでもないみたい。




 残念ながら間に合わなかった2体の遺体を、拘束から外して洞窟の外に運び出す。

 お姫様抱っこというか、ふたりまとめて焚き木のように胸で抱えて。


『死』の臭いに胸が締め付けられる。



 洞窟広場から少し離れた林の中に埋めてあげることにする。

 2体が入るような穴を掘る。


 斧で穴掘り、思ってたより簡単だった。

 穴を埋め戻し、墓標代わりに1mほどの石を置く。


 なんとなく、仏さんに手を合わす。

 手を合わせたとき、なにか2人の意志のようなものが入ってきた気がする。

 無念や怒りが2割、自分になにか託したい未来の希望のようなものが8割。




 気が付けば、さきほどの3人が自分の後ろで跪き手を組んでいた。

 ずいぶんと距離が縮まったもんだ。



 すっかり陽は落ちてしまった。洞窟に戻ろうとすると、3人がついてきた。

 小鳥のさえずりのような、小さい鈴が鳴るような心地よい声で何か言っているが、何を言っているのかはわからない。


 埋葬したことへの感謝だと嬉しいかな。

 敵対してるような、恨み言言うような口調でも無いし。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る