第2話 状況を整理してみよう

 状況を整理してみよう。


・森の中にいるらしい。

・魔法?を使ってきた。剣と魔法の世界のようだ。

・おそらく、自分は人間をやめているらしい。


 なんだこれ。



 あの隊長さん(仮)が撃ってきた火の玉は、たぶん魔法。

 終電に乗ったはずなのに、気が付けば昼の森。

 あまり覚えてないけど電車の中で見かけた気がする人たち。武装集団の前に自分のまわりにいた人たちはスーツ姿とか普通に日本で見かけるタイプ。


 これはウワサの「集団異世界転移」というものだろうか。


 しらんけど。



 神様にも会ってないし、チートも貰ってない。

 いや、この高身長と身体スペックはチートと言えるのかな。


 社会人になってからの運動不足の自覚はあっても、身長へのコンプレックスとか無いんだけどなあ。


 それで人類の敵というか「狩られる側」というのは難易度高いような気がしないでもない。





 というわけで、異世界転移の常識、あれをひとつやっておこう。


「すてーたすおーぷん!」


 はい。

 できませんでした。


 知ってたというかやり方を知らないというか。

 発音できないというか。





 喉が渇いたのでそのへんになってる果実をもぐ。

 どくむらさき色のやわらかい柿のような果実を無警戒に口に入れる。あんまりおいしくない。

 皮も渋いし種も噛み潰せばコーヒー豆噛んだようなビターな苦さが気になるが、いちおう喉の渇きは潤せる。


 川や泉の水ならともかく、水たまりの水は口にしたくないなあ、と。

 つい夢中になって50個ほど食べたけど、空腹を満たすのはこれじゃない感。


 肉食わなきゃ、肉。

 命そのものを喰らい尽くしたい欲求が次第に強まってくる。


 モンスターだしな、多分。



「肉が食いたい」とは言っても、さすがに親指サイズの野ネズミやウサギを追いまわすほどにはまだ飢えてもない。


 たまに大物の気配を感じるが、その姿を確認する前に離れていく。

 おそらく狼系。



 行くあては無いが、たぶん同じ方向に進んでるはず。

 ほとんど傾斜の無い森林は、木や茂みを細かく迂回するのを繰り返すのでまっすぐ進んでる自信はなくなっていく。



 気配を気にしながら進んでると、水の音が聞こえ始めた。

 しばらく進むと川に出た。


 川は流れがゆるく、蛇行している。

 川幅30mぐらいに見える。濁っていて深さがわからない。

 手で掬ってみたが泥混じりの泥水ではないけど、この水は飲めないなあ、なんとなく。



 気になっていた自分の姿を川面に映す。


・・・ですよね。

 うしあたま。

 知ってた。うすうす気付いてた。

 これは多分ミノタウロスというものではないだろうか。




 進行方向を横切る流れだが、もちろん行く先は決めてない。川を渡って初志貫徹まっすぐ進む理由も無い。


 人里から離れるように、川の上流方面へ向かうことにする。



 しばらく歩く。この先に何があるか、何も無いのか知らないが方針が定まれば心は楽になるってもの。




 日差しの勢いが落ちてくる。夜を迎える準備しなきゃ。夜に備えるって何すりゃいいんだろ。

 キャンプは人生で数回経験しているとはいえ、準備万端で管理キャンプ場に遊びに行く程度。自分のテントも持ってないエンジョイ勢。


 火起こしの道具すら無い、ここまで準備不足な野外活動は初めてです。




 標高10mほどの小山というか盛り土が川の流れでえぐれている。

 その小山を迂回するように三日月湖ができているので、洪水とかで川の流れが変わったのだろう。


 えぐれた崖の手前はちょっとした砂利の広場になっている。川まで20mほど。



「ここを今日のキャンプ地とする。」


 ひとりごと。言ってみたかったセリフ第何位?



 崖に割れ目裂け目というか、少し奥に行けそうなスペースがある。

 見た目通りのただのくぼみでも体を収めれば警戒するのは前方のみになるので、一休みするにはちょうど良さそう。


 割れ目を確認してみると、案外奥に続いている。

 奥から生き物の気配というか殺気・敵意を感じる。



 やっぱ、確認しておかないとなあ。


 結構やばい雰囲気ビリビリ来てるけど確認しておかないとヤバいよな。




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