4.不思議だ不思議だというのにも理由がありまして

 結論として、うちのトラネコのトラ君は完全に肉食らしいです。


「日本では魚をあげていたから、ネコは魚好きだと思われているけど、本来肉食だからね」


 日本では動物性たんぱく質と言ったら昔は魚だったから魚を食べていただけなのだそうだ。

 散歩から戻り、イノシシ肉を硬くならない程度に焼いて細かく刻んだものを虎雄さんはトラ君にあげた。トラ君は喜んでがぶがぶ食べる。


「うん、もう食べさせても大丈夫そうだね」

「火は通した方がいいんですか?」

「ジビエは寄生虫が怖いからね」


 そういううちの旦那様はそれほどしっかり火が通っていない状態で食べていることが多いんだけど、大丈夫なのかしら? 私が首を傾げたことで虎雄さんは自分のことに気づいたらしい。


「私はね、ちょっと違うんだ」


 虎雄さんは苦笑した。

 何がどう違うのかわからないが違うのだろう。

 私は決して、大好きな旦那様が大丈夫と言ったから大丈夫とかいう根拠のない言い方をする方ではない。うまく説明できないが、虎雄さんは確かに何か違うのだ。

 それはここを訪ねてくるお客様にも言えることだった。

 虎雄さんのスマホが鳴った。

 なにやらがちゃがちゃ話すと、虎雄さんは機嫌よさそうに電話を切った。


「やあ、明日の昼はお客様がいらっしゃるようだよ」

「そうなんですか。何がお好きな方なのかしら」

「なんでも食べるからね。明日の為にイノシシを少し残しておこうかな」


 明日の畑には何が生えているかしら?

 本当にこの山々はいろいろ不思議なのだった。



 翌朝、畑を見に行くと端っこに栗の木が生えていた。意味がわからない。しかも栗が鈴鳴りである。

 そう、ここの畑は日替わりでいろんなものが採れるのだ。昨日は大量のツルムラサキだったが、今日は栗の木のようである。なんでもありだな畑。さすがに畑からたんぱく質は飛び出してこないが(大豆は別)、ここに来てから驚きっぱなしである。ドラ〇もんも真っ青だ。あ、すでに青かったっけ。

 トラ君は畑の回りをうろうろしている。今日は上に生っているだけだから泥だらけにはならないだろう。気がつくと土まみれになっていたりはするんだけどね。


「虎雄さん、虎雄さん~~!」


 ちょっと私では手に負えないので、慌てて虎雄さんを呼びに行った。


「これは……」


 虎雄さんを連れてくると、さすがの彼も絶句した。


「この辺りのは、よほど力が強いのかな……花琳、長靴を履いておいで。栗を採ろう」

「はい!」


 虎雄さんは相変わらずよくわからないことを呟いた後、私に笑んだ。その笑みにやられてしまいます。

 家に戻って栗を採るのに必要そうなものを手にしてまた表に出ると、栗がばらばらと畑に落ちていた。虎雄さんが栗を足で踏んでは開けている。


「花琳、トングを持ってきたのか。それで中身を取って籠に入れてくれるかい?」

「はーい!」

「栗は下処理が面倒なんだけどなぁ……」


 ぶつぶつ言いながら虎雄さんは全ての栗を開け、素手で中身を取り出しては籠に入れた。痛くないのかなと心配になったが、虎雄さんは栗のとげをものともせず、そう時間をかけずに栗を採るのは終わってしまった。

 ちょっと楽しかった。


「今日は栗づくしかな」


 虎雄さんが家の中で作業をしている間になんとなく畑に戻ると、なんか見慣れない葉っぱが生えていた。うんしょ、うんしょと引っ張ったらぶちぶち切れる。これは地下に何かできているのかなぁとシャベルを使ってみたらさつまいもが出てきた。


「栗と……さつまいも……栗きんとん?」


 それは正月の料理ではないのだろうか。もちろん栗もさつまいもも好きだからいいのだけど、こういう予想もつかないものができている時は大概お客様の好物だったりする。そうでなくても秋の味覚ではあるけれど。

 さつまいもは上の葉っぱを引っ張ったぐらいでは出てこない。葉っぱの方がぶちぶち切れてしまうので地道に土を掘り返して採るしかないようだった。


「確か、じゃがいもみたいなわけにはいかないんだね~」


 大きなカブのようにもいかないらしい。いや、大きなカブだったらいくらなんでも抜けないから。

 さつまいもを籠いっぱいに採って家に戻ると、虎雄さんが栗の皮を剥いていた。なんか見たことのないハサミのようなものを使っている。


「虎雄さん、さつまいももできてました。それ、なんですか?」

「栗の専用皮むき器だよ。花琳も使ってみるかい?」

「はい! 使ってみたいです!」


 着替えて手をよく洗い戻ると、栗の山が四分の一ほど残されていた。


「その皮むきを頼むよ」

「はい!」


 虎雄さんはもうさつまいもの処理を始めていた。ごはんも洗ってあるらしく、ふきんをかけておいてある。今日は栗ごはんのようだった。涎が垂れそうである。

 あとで時間があったらまた畑を覗いてみよう。他にも何かできてるかもしれないし。

 ふと台所の向こうを見たらトラネコのトラ君が丸くなっていた。栗やさつまいもじゃ興味なさそうだもんね。拗ねたような後ろ姿にふふっと笑みが漏れた。あとで鶏のササミでもあげようと思った。(旦那様が用意してくれるらしい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る