2.ジビエは調理次第みたいです

 出会いまでのアレコレを回想している間に、旦那様がツルムラサキを調理してくれました。


「うわあ……」


 旦那様のおかげで毎日おいしいごはんが食べられて幸せです。


「冷めないうちにどうぞ」


 旦那様―虎雄さんがはにかんでそう言った。


「虎雄さん、おいしいです。最高です!」


 ツルムラサキのおひたしと、ツルムラサキの中華炒め。コマツナと油揚げのみそ汁。昨日虎雄さんが狩ってきたイノシシのみそ焼き。なんて贅沢なお昼ご飯だろう。ちなみに虎雄さんは焼き色をつけただけでイノシシ肉を食べている。

 ここに来て間もない頃、虎雄さんがイノシシを狩ってきてびっくりした。ここに引っ越してきた次の日には「狩りをしてきます」と言って暗くなる前にイノシシをかついで帰ってきたのだ。がたいもいいしすごく筋肉質な身体をしているのは知ってるけど、まさかそれなりの大きさのイノシシをかついでくるなんて思わないじゃない? うちの裏には小屋があって、そこは前に住んでいた人も動物の解体に使っていたのか、ちょうどよさそうな台があった。そこで虎雄さんは手早く解体をした。正確には内臓を先に出しただけらしいが、私は好奇心でその様子を見てしまい真っ青になって座り込んでしまった。

 匂いもそうだけど心構えもないまま生き物の解体を近くで見てはいけなかったとしみじみ思った。


「花琳(かりん)! 大丈夫か!?」


 さすがにイノシシ解体中の虎雄さんに介抱してもらうわけにもいかず、私はまさしくほうほうの体で家まで戻った。で、申し訳ないけど畳の上に倒れた。その間に虎雄さんは家の近くの川にイノシシを沈めたらしい。すぐに冷やすと肉の臭みが少なくなるようだった。それでもただ切って焼いただけのイノシシ肉は臭くて食べつけなかった。


「……ごめんなさい」


 せっかく虎雄さんが調理してくれた肉なのにと、その時はしょんぼりした。


「ジビエは食べつけない人もいるからね。でも肉が嫌いなわけでないなら食べられる調理法を見つけるよ」


 いかつい顔で苦笑され、抱きしめられた。とにかくときめいた。うちの旦那様サイコー!

 それでみそ漬けなど味をしっかりつけて調理してもらえばおいしく食べられることがわかった。冬は牡丹鍋がとてもおいしいと聞いてにこにこした。

 そんな私は食べ物の好き嫌いは基本ない。それにけっこう量を食べる。高校卒業まではいくら食べても太らなかったが、卒業後少し太った。そんな私のことを虎雄さんは好きだと言ってくれる。

 たださすがに山に引っ越してきてからは多少痩せた。畑仕事と草むしり、山中の見回りなどやることは沢山ある。しかもそれだけではなくこの家は料理屋も経営していたらしく、すぐにレストランとか喫茶店が経営できるような造りになっていた。虎雄さんは調理師免許も持っていると聞いてまたびっくりした。虎雄さんの手料理を食べたい人がそれなりにいるらしく、趣味程度ならとこの山でレストランを開くことにした。

 私? 私はウエイトレスですよ? たいしたものは作れないしね。食べるのは好きだけどお菓子も作ったことがない。せいぜいチョコレートの湯せんに挑戦したぐらいだ。アルミカップに湯せんしたチョコを乗せて、カラースプレーチョコを乗せたのを友達にあげた記憶がある。好きな人にあげたんじゃないのかって? 好きな人には市販のチョコをあげた記憶はあります。市販のチョコサイコー。

 また話が脱線してしまった。


「今回のイノシシはどうだった?」

「おいしかったです! みそ漬けいいですね。あ、でも中華系の味付けだとどうなんでしょう? 酢豚を食べてみたい気もします」

「酢豚……というとあれかな。古老肉かな、それとも糖醋肉かな」


 虎雄さんがぶつぶつ言っている。


「酢豚はパイナップルが入っている方がいいのかな?」

「いえ? どちらでも好きですよ~。パイナップルが入ると肉が柔らかくなるんでしたっけ?」

「そういうのではなかった気がするけどね。確か欧米人にさっぱりした肉料理を食べさせる為にパイナップルを入れたんじゃなかったかな」

「へー。虎雄さんて物知りですねえ!」


 うちの旦那様はとても物知りなのです。ただ中には通説もあるから、自分で調べて確認してほしいとも言われました。虎雄さんは更に謙虚で素敵だと思います。

 もちろんツルムラサキもおいしかったです。中華炒めも最高でした。

 トラネコであるトラ君は料理の匂いに興味津々で近づいてきたりもしたけど、まだミルクしかあげてないから何もあげられなかった。離乳食も虎雄さんが用意してくれることになっているから、寄ってきたトラ君の頭をなでなでするぐらいしかできない。トラ君は、「に゛ゃー」とダミ声で甘えてくれた。とてもかわいい。

 お昼ごはんを食べたら虎雄さんと山中を散歩することになっている。

 虎雄さんは実は国家公務員で、この山は国有地なのだそうだ。この山を入れて両隣も合わせた三つの山が私たちに与えられた土地である。それなりの高さがある山々なので歩きがいがある。そりゃあ痩せようというものだった。

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