第14話 帝都ヘブリッジ 2
2日目
朝食と、今後の行動について話し合う為、食堂へと赴いた。既にキャサリンが座って待っていた。
「待たせたようだな。」
「いいえ。私も今来たところです。」
俺達も席に座る。朝食は定食なので、三人揃って暫く経つと定食が運ばれてきた。内容は、ライ麦パンにチーズ、甘目でアルコール度数の低いサイダーだった。
朝食を食べながら、今日からの予定について話し合った。
今日から出発日までキャサリンとは別行動になる。俺達は相変わらず都市観光や買い物等をする一方、キャサリンは傭兵ギルドへ赴き、宿舎の引き払い、荷物の整理、傭兵活動の停止申請等を出発日までに行うそうだ。荷物については着替えなど、最低限度のものだけで充分だと言ってある。
合流は、宿を引き払う日の朝に食堂で落ち合う事にした。
朝食も食べ終え、各々行動に移ることになった。俺達は馬車を出し、今度は時計回りで宿から西広場、北広場、東広場の順で巡る事にした。まだ西広場までは距離があるが、周りを見ると、肉屋が見えた。反時計回りでは肉屋を見なかった事から、このエリアに集中しているのであろう。多分屠殺含め、肉の処理で出る廃棄物や臭い、衛生管理等の対策の為ではないだろうか。店毎に得意としているものが違うのか、鳥類を扱っている店、豚類を扱っている店、牛類を扱っている店等様々だ。近郊で狩猟したジビエを扱う店もある。キャサリンが仲間に加わった事から、消費量も増えるので適当に買い足して行く事にした。鳥肉類、豚肉類、を買い足し、牛類を扱う店に来た。
「へい。らっしゃい!」
威勢よく肉屋の店主が言う。
「うちは牛に関しては帝都一だ。何と言っても帝室御用達だからな。」
「へえ。凄いね。色々あって目移りするよ。予算に糸目は付けないから一番お勧めのものを教えてよ。」
「それなら、黒毛牛と言われる肉が最高だな。贅沢な事に、肉を取る為だけに育てられた牛だ。餌も贅沢で、牧草の他にも俺達が食うような穀物まで与えていると来ている。だから、味わい深いだけでなく肉質も柔らかい。その反面、普段使いするには帝室ご一家や大貴族様位しか買えない値段になるんだぜ。」
「そんなに贅沢な肉があるんだ。ちなみに値段はどれ位?」
提示された値段は軽く銀貨単位からで、確かに一部の特権階級を除いては、ここぞと言う時にしか買えないだろう。
「今日は2頭入荷して、今絞めている最中だ。兄ちゃんに回せる肉もあるぜ。どうする?」
お前に買えるのか?と言う表情をしている店長の顔を見て、益々購買意欲を煽られた。これはもう買うしかない。
「ブロック単位で切り分けたり、余計な脂や筋取りもしてくれるかな?」
「当り前よ。お貴族様に卸すんだぜ。それ位いつもやってる。」
「なら決まりだね。肩ロース、リブロース、サーロイン、ヒレ、ランプ、スネ肉が欲しい。」
「黒毛牛のかなりの部位を買い占めるのか!それも良い所が多いな。お貴族様の注文分は確保できているから売っても良いが、買えるのか?もはや1金貨位は必要だぞ!」
「これで足りるかな?」
と1金貨差し出す。
「本当に出してくるとは…。分かった。だが少々時間がかかるから、待っててくれよ。」
「それから、黒毛牛の新鮮な牛タン、切り取った脂肪の固まり、バラしたばかりの大腿骨と尾の骨も貰えるかな?後、スネ肉は他の品種の牛でもいいから多めに欲しい。」
「それならタンは処理して2本つけてやろう。脂肪も大丈夫だ。スネ肉は在庫があるからいいぜ。けどよう、骨なんて何に使うんだ?こっちとしては引き取ってもらえるとゴミが減って嬉しいがな。」
「追加のお代は幾らかな?」
「1金貨貰ったんだ。おまけしてやるさ。」
「ありがとう!それじゃ、店の端に停めている馬車で待ってるよ。出来たら呼んでね。」
「おうよ。」
馬車に戻る。
「宏、多分この世界で手に入る牛肉の中では最高クラスと思われるものが手に入ったよ。」
「本当か?それは楽しみだ。」
「ただ、1金貨したけどね。」
「高いな!」
「でも投資する価値はあると思うよ。牧草だけでなく穀物も与えられたアンガス牛のような肉だしね。」
「それなら道中の食事は期待するとしよう。」
暫くすると、店員が呼びに来た。再度俊充が中に入る。奥の作業台に抗菌力を持つ葉で包まれた各部位の肉と、骨があった。
「これだけの量だ。馬車に積めばいいのか?」
「いいや、このバッグに入れていくよ。」
「マジックバッグ持ちか。なら買える訳だよな。そうそう。今は夏だしバッグの中ならまだマシな状態で保管できるが、悪くならないうちに食べきってくれよ。」
全部収納してから、店長にお礼を言い店を出た。
「宏、今買った牛肉を最高の状態で食べたいから協力してくれないかな?」
「これまで買った肉と同じように保存しておけばいいのか?」
「そう。宏のアイテムボックスに移すから、いつも通り、樹脂フィルムで真空パックして2℃で保存して欲しい。それから食べる直前に適切な促進熟成を行おう。」
「そうだな。やっておくよ。」
肉類を補充出来たので、次はパン屋のエリアだ。丸白パンの在庫も減ってきているし、栄養価の面で考えるとライ麦パンも取り入れたほうが良いと気付き、ライ麦パンを多めに仕入れる事にした。これで暫くは持つだろう。
そのうち、西広場に着いた。
「各広場毎の特色はあまり無さそうだね。」
「ああ。帝都は広いからな。わざわざ専門エリアに行かなくても良いように店のバランスが取れているんだろう。」
昼が過ぎたので腹が減った。屋台の飯を適当に買い食いする。その後、西広場を超え工業区へと入った。
まず見えてきたのは鍛冶屋のエリアだ。店頭を眺めてみる。剣や鎧等の武具類から、生活雑貨まで色々と取り揃えているが、特に欲しいと思わせるものは無かった。
次は木工製品のエリアだ。キャサリンも仲間になった事だし、対人戦闘訓練の相手になってもらったほうが良いかと思い、木剣とメイスを模した棍棒を購入した。それから、他の木工製品をゆっくり眺めながら通過する。
そうこうしている内に北広場に着いた。南広場に比べれば工業製品の割合が若干多い物の、極端に比率が偏っている訳でも無かったので、そのまま東広場方向へと進む。
先に見えたのは、布、服関係のエリアだ。ターポートにいる時に幾らか仕入れていたので、急は要していないし、新品で買うとなると完全オーダーメイドになるので、滞在中には間に合わない。二人は着道楽では無いし、南大陸の流行の最先端を追い求めている訳でも無い。よって店頭に飾られているサンプルを見て楽しむだけで終わった。
次に皮革製品屋のエリアが見えてきた。靴が欲しいと思ったが、やはりオーダーメイドで時間がかかるので諦めざるを得なかった。今の所、馬車で旅しているお陰で靴の減りはさほど無いが、いずれ必要になってくるだろう。今後長期滞在する際には忘れずに入手しなければと思った。
西広場の手前、工業区の端に魔道具工房の店があった。これには興味をひかれていたので、早速店の中に入る。店の入り口には屈強な男二人が槍を持って立っていた。高額商品が多い為、防犯の為だろう。
中に入るとあまり人気が無く、店主と店員が一人ずつだった。前から欲しかったものがある。それは魔道具のランプだ。光魔法で代用しているが、人気のある所では使いたくない。早速手に取り、店員の許可を得て点灯させてみる。明るさは十分だ。これを3つ購入した。1つ50銀貨だった。また、魔道具を動作させるには魔石が必要で、魔石1個につき、6時間点灯させて1か月は持つそうだ。ランプに合う小さな魔石も合わせて6個購入した。1つ50銅貨だった。
カウンターの奥にも魔道具が並べられていたが、こちらは外国である東大陸・北大陸の国から輸入したより高度かつ高価な魔道具だ。南大陸では技術力が足りないのか、簡単な魔道具を作ることで精一杯らしい。勿論技術力向上の研究はしているようだが。他に欲しくなって散財してもいけないので、店を後にした。
東広場が見えてきたので、南広場方向へとそのまま進み、宿へ帰って来た。
今日一日で色々な所を巡ったためか、少々疲れたので、夕食をとってから、早めに寝た。
3日目
早めに寝たからか、気分が良い。今日はゆったり過ごしたいと思っていたが、農家のおじさんからトマトを引き取る事を思い出した。
朝食をとってから、馬車で南広場を目指す。おじさんの露店に荷車が横付けされていて、トマトが満載されていた。早速トマトを買い付け、馬車の中に運んでからアイテムボックスに仕舞う。
作業が終わってから、おじさんに礼を言い、向こうも感謝の気持ちを伝えてきた。
次に商業区で見かけた本屋に行く事にした。魔道具について書かれた本が欲しかったからだ。店主に見繕ってもらった所、初心者向けの概要が書かれた本しか見当たらなかった為、それを買うことにした。価格は5銀貨。その他に目についたのがモンスター図鑑だった。リアルなイラスト入りで分かりやすい。価格は10銀貨だったが、これも買うことにした。旅の途中時間があったら読んでみよう。
次に再びパン屋へと向かう。昨日買い占めるだけ買い占めたが、もう少し仕入れたいと思っていたのだ。店に着いた所、店主が手加減してくれと懇願してきたので、買い占めるのは止め、ある程度の所で留めておいた。これまでのストック分と合わせても、ハンプールまでの旅程で消費するパンは十分以上に賄えるだろう。
次に商業ギルドと南大陸路線馬車ギルドへと向かう。ハンプール方面での安全情報を確認する為だ。
商業ギルドで情報を仕入れると同時にアンナ嬢に別れの挨拶をした。
その後、南大陸路線馬車ギルドでも情報を仕入れた。
これらの情報をまとめると、森林地帯でモンスターと盗賊の被害情報があるとの事で、帝国騎士団が安全確保の為出動している話も聞けた。これまでも気は抜いていないが、注意しておくに越した事は無い事を再認識した。
11時過ぎ位でまだ少し早いが、屋台飯を食べ、宿屋へと戻った。明日からの長旅に備え、ゆったり過ごして英気を養おう。そう思い、各々好きな事をして一日が終わった。
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