俺と私の夏祭り
なゆた
俺と私の夏祭り
俺────
大勢の人が目当てにするのはお祭りのラストに打ち上げられる花火。
これを見に沢山の人で溢れかえるのだ。
そんな夏祭りに、俺は想いを寄せている牧さんを勇気を持って誘ったのだった。
待ち合わせの駅で10分程待っていると、
「真琴くーん! おまたせ!」
牧さんが浴衣姿で歩いてきた。
「…………」
「あれ? 真琴くーん? おーい」
「あっ、ごめんなさい牧さんの浴衣姿が似合っててつい……」
花の柄が散りばめられている水色の浴衣を着ていた。
牧さんにとても似合っていて、つい見惚れてしまった。
……牧さんの顔が真っ赤になった事には気付かなかったが。
「…………真琴くんのいじわる」
「ん? なんか言いました?」
「何でもない! ほら行くよ!」
牧さんが足早に歩き出したので俺もそれについていった。
「やっぱ結構人がいますね」
「そうだね」
少し電車に揺られ、最寄りの駅についたがすでにかなりの人で溢れていた。
「これじゃあ迷子になっちゃいそうだね?」
「そうですね。牧さん離れないように気をつけてくださいよ?」
「…………そういう事じゃないのに」
何か牧さんが小声で呟いていたが、いつもの事なので気にはしなかった。
少し駅から歩くと屋台などが多くなってきていた。
「牧さん、何か食べますか?」
「うーん……食べたいけど悩むなぁ……真琴くんは?」
「俺ですか? そうですね…………あっ、あれがいいです」
俺はじゃがバタの屋台を指さした。
まだ花火まで時間があるので、何か腹を満たしておきたかった。
「おっじゃがバタか! いいね!」
「じゃあ買いましょうか」
俺たちはじゃがバタを買ったあと、近くの公園のベンチで食べることにした。
「おいひいね」
「ちょっと牧さん、食べたまま喋らないでくださいよ」
「まことひゅんだからいいでひょー」
「駄目です。行儀悪いですよ」
「むー」
牧さんは不満気な顔をして、じゃがバタを食べ終わってから話し出した。
「もう! 真琴くんはいちいち気にしすぎなの!」
「そう言われましても……気になるものは気になるんです、牧さんも行儀良くないとお嫁さんに貰えませんよ?」
「うぐ……それはごもっともだけどさ……」
納得のいっていない顔をしながら、牧さんは残ったじゃがバタを食べ始めた。
「んじゃ牧さん、僕お手洗い行ってきますね」
「わかった、じゃあ私は待ってるね」
「はい」
そうして俺は公園を離れ近くのコンビニまで向かっていった。
──────私は真琴くんの事が好きだ。
昔から年下なのにしっかりしてて、頼り甲斐もある。それでいて可愛いところもあって、ずっと好きだった。
ただ。
「真琴くんってほんとに鈍感なんだから……」
彼は真面目すぎる故に、鈍感だった。
昔から何度かアタックしているのだが、中々気付いてくれない。
(でも……少し期待していいのかな)
今日、こうやって誘ってくれたのは彼だった。私は表情には出さなかったものの心ではめちゃくちゃに喜んでいた。
そんな風に考えていると。
「にゃ〜ん」
「ん? あ! 猫ちゃん!」
私は大の猫好きだが、家がマンションなので犬猫はもちろん禁止。
なのでこういう野良猫などを見かけると触りたくなってしまう。
私は触りたいという誘惑に負け、猫に近付いた。
「にゃ〜ん」
「よしよーし可愛いねぇ」
しばらく猫を撫でていると猫は何かを見つけたのか、道の外れに向かって歩き出した。
「あれ? 猫ちゃーん待ってよー」
私は荷物をベンチに置いたままという事に気付かず、そのまま猫についていった。
「まって猫ちゃーん」
猫はしばらく歩いた後に塀の上を越えて逃げてしまった
「あー猫ちゃーん」
もう少し触りたかった……
そしてしばらく惜しんでいた後にとある事に気付いて顔が真っ青になった。
「あ…………」
(ここどこ…………)
真琴くんに公園で待っていると言っていたのにまったく知らない所に来てしまった。
(……私のバカ!)
私はお祭りの通りに戻って公園の場所を探そうとしていた。
しかし、ここの土地勘がある訳でもなく途方に暮れている。
「うぅ……」
昔、親とお祭りではぐれてしまった記憶を思い出す。
親を探すために必死に駆け回ったが、見つからずに花火が始まってしまった。
結局花火が終わった後に、親が私を見つけてくれて一悶着ついたのだが、私にとっては苦い思い出だ。
すると、
……ヒュー、ドーン
「あ…………」
花火が打ち上げられていた。
「始まっちゃったよ……真琴くん…………」
また私は苦い思い出を作ってしまった。
しかも好きな真琴くんとのお祭りデートで。
私は泣きたいのを堪えて、皆が花火を見る河川敷に座り込んでしまった。
「真琴くんも今一人で見てるのかな……」
真琴くんにまた迷惑を掛けてしまった…………。
ついに私は涙を堪えられずに泣いてしまった。
私が猫ちゃんについていかなければ………
「なんで綺麗な花火で泣いてるんですか。牧さん」
「え……?」
聞き覚えのある声がして、後ろを振り返ると真琴くんがいた。
真琴くんは私の隣に座って私を見た。
「綺麗ですね、花火」
「うぅ……真琴くぅん…………」
私は真琴くんに泣きついた。
「ちょっと、俺の浴衣じゃなくてせめてハンカチにしてくださいよ」
「……いいでしょ」
そのまま私は真琴くんに寄りかかり、顔を肩に乗っけた。
真琴くんがビクッとしたが、駄目だとは言ってこない。
「ありがとう……見つけてくれて」
「ほんとに心配させないでください」
「……すいませんでした」
私はクスッと笑い、花火を見上げた。
(この時間が一生続けばいいな……)
そんな事を思いながら、二人で夜空に打ち上げられる花火を眺めていた。
俺と私の夏祭り なゆた @nayu_24
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます