13

(このまま走り続けても捕まってしまう!)


 自販機は2列になっていて、裏側は国道から見えない事に君は賭けた。


 君は全速力で空地に入り、裏側へと君は飛び込む。

 と、そこに全身黒のジャージ姿のおじさんが背を丸めて立っていた。

 ショッキングピンクの布を持って、それで顔を、拭いているのか、匂いを嗅いでるのか、顔をうずめて立っている。


 飛び込んだ君に気づいていない。


「うわぁぁ! どいてぇ!」

「あああっ! なんだぁ!?」


 君とおじさんは激しくぶつかってしまった。

 そして2人地面に激しく自販機にぶつかり、地面に倒れ込む。

 凄い音がして、2人ともが倒れた衝撃で、なかなか立つことができなくなってしまった。


 そこへ、お巡りさんが駆けつけてくる。


 お巡りさんは君の姿を見失ったものの、自販機の裏から激しい音がしたので気づき、折り重なって倒れている君とおじさんを発見する。


「あっあの下着は!?」

 とお巡りさんは、おじさんの手に握られているショッキングピンクのスケスケパンティーに気づいた。


「おい、君ら2人とも動くな!」


 お巡りさんは、脳震盪を起こしている2人を自販機にもたれかかるように座らせ、2人ともが持っているショッキングピンクのスケスケパンティーを奪った。


 そして、2人の回復を待って、


「いいか、さきほど中学生の女の子の下着が盗まれた。それはピンク色でスケスケのものという、中学生とは思えないものらしい……」


 とお巡りさんは、右手と左手に1枚ずつショッキングピンクのスケスケパンティーを持ち、2人に見せながら言った。


 お巡りさんは、まず右手のパンティーを突き出し、


「この下着、どこで手に入れた?」

 全身黒のジャージのおじさんに尋ねた。


「ああ、ああ……」

 おじさんは顔を俯かせ、答えない。


「では君、君のはなんなんだ、どこで手に入れた?」

 とお巡りさんは、左手のパンティーを突き出し、君に訊ねる。


「……僕のは……僕のは……」


 君は俯き、


(もう、駄目だ……白状して、手首を切ろう……)


 君は失意の中、

「僕のは、これのおまけです……」

 とカバンの中から、あまりに魅力的な表紙のエロ本を取り出して言った。


 お巡りさんはエロ本を、興味なさそうに受け取り見ると、


「たしかに、付録がこの下着だと書いてある」

 と、

「という事は、お前が盗んだんだという事だな」

 おじさんに振り向き言った。


 おじさんが、おどおどしているのを、お巡りさんは厳しく詰め寄ると、おじさんは、

「……盗み……ました……」

 と観念して白状した。


 お巡りさんは君に振り向き、

「君は、逃げたわけは聞かなくとも想像できるよ、ははは」


 あきれて笑いながら言ってきた。


「このエロ本、この表紙の子、うん、なるほど……そう言う事か……」


 お巡りさんは、何か考え込む。


「とりあえず、この本は没収だ」

 とお巡りさんが言った時、、ぞろぞろとご近所さん達が、追いかけて来て集まってきた。


 その中にアユミと、その母と姉も一緒に居た。


 お巡りさんは、君のパンティーをポケットに隠し、アユミ達一家におじさんのパンティーを見せる。


「盗まれた物は、これで間違いありませんか」

「ああっ、そうです、それです、盗まれたのは」


 アユミの姉が答えた。


「そうでしたか、犯人はこの人でした」

 お巡りさんが、おじさんを見る。


「この子が、捕まえましたよ」

 お巡りさんが君を見る。


(えっ何を言ってるんだ?)


 君は困惑してお巡りさんの横顔を見る。


「じゃあ、私が見たのは……」

 アユミが尋ねた。


「ああ、なんか、先に取り返してたみたいですよ。それで犯人を追っていったと、そう言うわけです」

「えっそうだったのっ」


 アユミが驚いて、君を見る。


「では本官、犯人を連行していかねばなりませんので」


 お巡りさんは敬礼し、おじさんと共に去っていった。


 アユミは、まだ自販機に凭れて座っている君の元へやってきて、


「私、勘違いしちゃったみたい。私のパンツを盗んだのが君だと思い込んじゃって」

「えっ、お前のパンツ」

「ああっ、うんと、違うのよ、お姉ちゃんがからかってくれた奴でっ」


 君は、その様子に笑ってしまう。


「何よ、何笑ってんの?」

「なんでも……」

「ありがと」

「へ?」

「犯人、捕まえてくれて」

「ああ……別に……」


 その後、君はアユミと共に帰宅した。


 このエロ本の騒動の偶然と、お巡りさんの粋な計らいで、君はアユミとよく話すようになった。


   ◇


 あれからずいぶん経った……。


 あのエロ本は、没収されてしまったが、すぐどうでよくなったんだよな……。

 すぐにアユミと付き合う事になったんだから。


 今では、アユミとの間に子供もできた。

 でも、仕事でなかなか家に帰れないから、家族と一緒にご飯も食べられない。


 思えば、僕も父と同じことをしているな……。

 アユミとも口喧嘩ばかり。


 でも今日は違う。

 早く帰ってこれた。

 さっ、もうすぐ夕食の時間だ。


   The Heartful end.

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