10

(カバンにエロ本を忍び込ましたまま、そしてパンティを穿いたまま、家族団欒で夕ご飯を食べるなんてできるわけない!)


 と、なんとしても自分の部屋に行く事にした。


「一回部屋に行って置いてくるよ」


 君は、もう一度ボソッと言って父に言ってどいてもらおうとする。


「後にしろよ、何なんだ」

「そうよ、もう準備ができてるのよ」

「いや、一回置いてくるよ」


 再度ボソッと言いながら、君は座っている父を押しのけ通ろうとした。


「おい、何なんだ! そんなに俺と食べるのが嫌なのか!」


 父が怒号を飛ばしてきた。


「そうじゃないけど……」

「そうだろ! ハッキリ言って見ろ! お前も母さんと一緒だろ!」

「なんなんだよ……」

「お父さん、怒鳴らないでよ、いっつもそう」

「誰のために働いていると思ってんだ!」

 と父は怒鳴って椅子から立ち上がった。


 その拍子に、カセットコンロの上でグツグツいってた鍋がひっくり返る。

 避ける間もなく、煮えたぎる鍋の中身が君の下半身に掛かった。


「うわぁぁ! 熱いぃ!」


 君は、仰天して立ち上がる。

 中身をすべてぶちまけた鍋が、空になって床に落ちて鈍い音を立てた。


「きゃあああああっ!?」

 母が、仰天して悲鳴を上げる。


「大丈夫か!?」

 と父が、仰天しながらも、

「早くつなぎを脱げ!」

 と的確な指示を君にして、目の前にいる息子のつなぎを掴みジッパーを降ろしてきた。


 君は、ジッパーを降ろす父の手を止めることはできなかった。


 家族の前で、着ていたつなぎがすとんと膝まで落ちる。

 家族の前で、君はスーケスケパンティ一丁となった。


「何なの……このパンツ……!」

「なんだ……これは、パンティ……!」


 父と母が、君が履いているパンティに注がれていた。


 そして、

「それ、まさかっ、お前が下着ドロだったの!?」

 母が、涙目になって叫ぶ。


「なんてことをしているんだ、お前は!」

 父が軽蔑の目で君を見ながら、

「早く脱げ! お隣さんへ返しに行くぞ!」

 と怒号を飛ばした。


 ふと、パンティーを履いているのを見られたショックで放心状態の君は、持っていたあまりに魅力的な表紙のエロ本が、さっきの騒動でカバンから飛び出し、あろうことかガスコンロの上に着地、黒々と燃えているのを発見する。


 ショックで放心状態の君は着替えさせられた後、父と母に連れられ、何も意味が分からないままお隣さんへ謝りに行く。


 母が差し出した君のパンティを、隣家のアユミ一家が見ると、

「ああ、盗まれた下着は、たしかにこれです」

 とアユミの姉が言った。


 アユミがショックを受けて、君を見つめながら涙を流し、2階へと走り去っていった。


(何が起こっているんだ……?)


「すいません、うちの息子が下着を盗むなんて」

 と父が深々と頭を下げている。


(僕は盗んでなんかない……)


「申し訳ございませんっ」

 と母が深々と頭を下げる。


 なぜだか知らないが、隣の下着を君が盗んだことになってしまっている。


 君は、パンティーを履いているのを見られたショックと相まって、あれは盗んだものじゃない、と弁解する気も起きない。


 家に帰ってくると、君は何も言わず俯いて、ゆっくりと凝視している父の背後を横切り階段を登り、自分の部屋に入り、ドアを閉め、手首を切った。


   The Bad End.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る