さかもとのいる街

 僕と坂本は親友だった。それはもう、ずいぶんと昔のことだけど、まるで昨日みたいにしっかりと覚えている。まあ、当時の僕らは昨日のことなんてすっかり忘れて今日を生きることに忙しかったけど。

 坂本はよく僕に「この街のことはまるで手に取るようにわかる」と豪語した。そう言う時の坂本は常に誇らしげで、少年時代特有の全能感と無敵感に溢れていた。

 現に彼はどこの通りの何丁目、何番地で赤ん坊が泣いてるとか、どこのスーパーでガキが万引きしてるとか、強盗がどこどこのコンビニに突撃したとか、全てを言い当てて見せた。

 僕ら二人は彼の言葉の事実確認のために、彼の指定した場所に赴いて事実の有無を確認しに奔走するのが常だった。自転車を漕いで、坂を下り、商店街を突っ切り、ガード下を潜る。

 そして実際に現場に着いて、それが起こっているのを見て笑いながら二人でコーラの瓶を突き合わせるのである。炭酸の喉越しを感じながら、僕はなぜ彼がこの街の出来事全てを把握できるのか考える。聞いてもわからないと彼は答える。ただ、なんとなく察することができるのだと。

 僕らはよく賭けをした。コンビニ強盗に出会した時なんかは、通報した後、彼らが上手く逃げ切れるか否かを賭けたものだ。その他にもたくさんの賭けをした。日頃全てのことを見通すような坂本は賭け事ばかりは滅法弱く、勝率は僕が九割だった。コーラはいつも坂本の奢りだった。だけど坂本が財布の中身を気にすることはなかった。彼の特性をもってすればどこに小銭が落ちているかくらい容易に分かったからだ。

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