オーバーテイル.exe

 PCのモニター画面に割れ目クラックが走ったのは、ゲームを起動してからしばらくしてからのことだった。

 始めは、はぁ?と戸惑ったが、やがて一切の入力を受け付けないことを悟ると激昂して卓上を拳で殴りつけた。いつものことだ。

 ゲーミングPCを購入してまもなく半年にになるが、こんなことは初めてだった。おそらく今回ダウンロードしたエロファイルに余計なウイルスでも封入されていたのだろう。ファイアウォールを突破してきたあたりかなりタチが悪そうだ。

 みぞおちの熱と圧迫感に辟易としながら意味もなくマウスのクリックを繰り返す。

 しかし一向に画面が復旧することはなく、亀裂は形を変えながら画面を縦横に走り回った。

「死ね」

 卓上の手の届く範囲に配置してある頭だけのマネキンを殴る。度重なるストレス解消のための殴打によって頭部は陥没し、目玉となる部分は虚な空洞をたたえている。

 業を煮やして再起動でもかけようと電源ボタンに手をかけたところで、PCのケースが発火した。

「ふぁ?!」

 咄嗟に足元の携帯消火器を蹴り上げる。高速回転しながら、重力と釣り合って中空で静止したそれを把握。ロック解除、照準調整、発射、の一連の流れを淀みなくこなして消火を開始。噴出するCO2ジェットが酸素供給を絶ち、消火完了。

「なんなんだよこの──」

 そこまで言葉を注いだところで画面の亀裂がおさまった。すると今度は砂嵐が画面を占拠した。始めは白黒のセルがランダムに暴れ回っていたが、やがてそれらが整然と組み代わり、一つの図形を描き始めた。

 それは顔だった。

 いったいいかなるホラーだろうか。それはピンぼけの写真のように細部が曖昧で、揺らめきながらこちらを生気のない表情でじっと見据えている。その様は幽霊を思わせた。射竦められて微動だにできない。

 ──それは口を開け、言った。


「目覚める時だ」


 異界。

 空には無限の宇宙があった。巨星が群をなしてゆったりと停滞し濁った頭上の気を押し退けて進んでいく。

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