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殉愛

「どうすれば、憎んでくれる?」

「……」

「お前に嫌われるためなら、全てが灰燼に帰しても構わないと思った。ただお前から離れたかった。なぁ、見ろよこの世界を。わたしの手で何もかもが失われてしまった。それでもなお、お前は赦すのか?」

「……うん」

「どうしてだ? なぜ赦せるんだ?」

「だってあなたがぼくを愛してくれたから」

「愛などという感情で世界が救えるか!」

「でもぼくは救われたよ」

「違う! そんなものは欺瞞に過ぎない!」

「欺瞞?違うね、間違っている。ぼくにとっての真実だ。殉愛だよ」

「……何だと?」

「だからきっと大丈夫だよ。いつか本当の気持ちになれる日が来るって信じてる」

「……っ!!」

 彼女は僕の胸倉を掴む。

「ふざけるな。そんな言葉じゃ何も救われやしない」

「いいんだよ。それで」

「…………」

「あなたの苦しみも憎しみも全部引き受けてあげる。それが僕の望みなんだから」

「だまれ」

「この星の無数の塵の中の一つだと、今のぼくたちには理解できない」

 そう、呟くように言った。

「そうだ、塵にすぎないだろう。お前にとってはその程度の存在だったはずだ。なのになぜそこまでする? なんの価値もない塵のために命まで投げ出すつもりなのか?」

「価値があるかどうかなんて関係ないさ。ぼくには大事な人がいる。守りたいものがある。命なんかのせいにしないで」

「黙れと言っている!」

 彼女の瞳からは涙が流れ続けていた。

「戯言はもうたくさんだ」

「本気さ。本気で言ってるんだ」

「ならば、一つだけ答えてくれないか」

「なんでも答えるよ」

「もし仮にわたしがお前を殺したら、その時はどう思う?」

「悲しいと思う」

「それだけか?」

「我儘を言うと、最後まで隣でいて欲しい。願わくば伴侶の如く、ね」

「わかった。約束しよう。もう、望めないものなど何もない」

 ぼくらは互いに抱きしめ合った。

「こうなると知っていたのか?」

 ぼくは笑いながら耳元で囁いた。

「愛は必ず、最後に勝つのさ」

「ふん、相変わらず小賢しい奴め」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「ああ、そうだとも」

 そうして僕たちは、共に滅びゆく星の上で口づけを交わした。

 それからどれくらい経っただろうか。

 いつの間にか流星雨はこの星に到達しようとしていた。

「ねぇ知ってるかい?あの世では時の流れが違うらしいよ。ここよりもずうっとゆっくりなんだとさ」

「では、さよならまではまだまだあるな」

「うん」

 多分、今なら、愛してるの響きだけで生きていける気がした。

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