2章 堕落編

第13話天才


ー家の前に着いたー


「……」


 今日はとにかく色々ありすぎた。


早く寝て、この疲労感から解放されたい。


もうしばらく時間が経ったというのに、まだその感触が残る頬を触りながら僕は、真っ暗な部屋に灯りを入れた。


☆★☆(回想)


 僕は、父さんと母さんそして、2つ年下の妹の舞の計四人で暮らしていた。


 まだ、僕の性格が明るかったころの話だ。


両親は共に公務員という事であり、職場結婚をしたらしい。


なんの仕事をしていたかは知らない。


質問しても、いつも秘密だとか何だとかお茶を濁されていた。


父さんは無口で静かな男だったけど、テレビを見ているときだけは別だった。


画面を真剣に見つめながら、テレビに出ている人の真似を口をパクパクさせてしていた。


何でそんなことをしているのかは分からなかったけれど、何となく父さんがそんな奇妙な事をしているのが、面白おかしくて僕も父さんのマネしていた。


そしたら、それに気がついた父さんが悲しそうな顔をして、


「やめなさい」


と、何とも哀しそうな顔をして僕の口に手をかざして注意してきた。


僕はただ真似しただけなのに。


 母さんは無口な父さんとは対照的で陽気だった。


つまるところ、我が家のムードメーカー。


”子供は外で日が暮れるまでトコトン遊ぶべきだ”といった信条を抱く人だった。


だから、そんな母さんの影響を受けて、僕が夜遅くまでやんちゃして、自由奔放に遊ぶことを周囲が咎(とが)めても、


「気にしちゃあかんよ。ガンガン遊びな!」


と怒るどころか褒めてくれたぐらいだった。

 


そして舞……。


舞はとにかく変わった奴だった。


小さい頃はいつも僕じゃなくて、御堂にべったりとくっついて一緒に絵を描いていた。


最初は舞は御堂とは違ってど下手だったけど…。


ただ、舞は好奇心旺盛な奴で、そして負けず嫌いだった。


 だから、どうすれば絵が下手な自分でも上手く描くことができるのかという事に異常なほどに執着するようになっていた。


――その結果、舞は紙媒体ではなく、電子媒体で描くことで、飛躍的に素人の僕の目にもわかるほどそのスキルをみるみる上昇させていた。



でも、あともう一歩で御堂と肩を並べて、そして追い越していくんだろうなと思った矢先、


「……兄さん、もう飽きちゃった。何か他のことしたい。何かない?」


とか言ってきた。


舞はある程度自分のものに出来たら辞めてしまう飽き性だったんだ。


もう少し継続すればいいと思い、口を挟んだけど無意味。


言い出したら僕があーだこーだ言っても聞くような素直な性格じゃなかった。


――仕方がなく当時自分の趣味がパソコンいじりだったという事もあり、舞にパソコンを貸してあげた。


そしてこれが舞にとっての新たな遊び道具に生まれ変わった。


 以降、僕の手元にそのパソコンが戻ったことはない。


というより、舞は部屋から出てこなくなったのだ。


ずっと、ずーーッと一日中部屋に引きこもり。


終いには、学校にも行かずにパソコンに向かってた。


 ついにそんな舞を心配した母さんが、元凶である僕に問いただした。


この時ばかりはさすがに大目玉を食らうと思ったけど、母さんの反応は――。


「あーーここ数日部屋から出てこないと思ったら、ハハッ、巧のせいじゃないの! ほら、巧! 責任取って舞の様子を確認してきな!」


 正直、親ならこの状況、とても笑えるものじゃないと思うけど。


そんなことを思いながら、母さんの指示通り、舞の部屋のドアにノックをして、


「おい、いい加減出てこい! 何してんだ? 兄ちゃん入るからな」


「……」


だけど、当然というべきなのか中から返事はない。


どうやら、集中しすぎて僕の事なんか目にも入っていないっぽいけど……。



 もう三日も出てきていないんだ。


許可なく入っても文句を言われる筋合いはない。


そう思って、勢いよくドアノブを回して部屋に乗り込んだ。


――そこには椅子の上であぐらをかいて、瞬き一つせず、一心不乱にパソコン画面に向かい合って、見たこともない数字の羅列と格闘する舞の姿があった。

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