第12話お別れ
帰宅途中、やはりというべきか僕と
御堂とは駅で別れる。
あと3分ほどしたら到着するだろう。
もう残された時間は少なかった。
いつでも連絡できると御堂は言ったものの、次に会えるかどうかは分からない。
11年共に過ごしてきた御堂の、先ほど突然告げられた、別れの
(どうする。どうする。)
このまま何も話さずに終わりなのか、僕たちは。
本当にそれでいいのか。
11年間、ここ数年はあまり接する
どうしても何かを御堂に言わなくちゃいけない気がする。
(何かってなんだ? なんだ…?)
☆★☆
結局、考えがまとまる前に駅についてしまった。
「じゃあね。引っ越して一週間くらいはドタバタして
そういって、彼女が去っていこうとする直前になりようやく僕の口から出た言葉は、
「……山本先生の宿題はちゃんと提出したか」
おおよそ全く話の流れと関係のない、ピントのずれた質問。
一瞬、目をきょとんとさせた御堂だったが、やがて申し訳そうな顔をして、
「あははは。そういえばあったね。完全に忘れていたよ。あれかな、これが勝ち逃げっていうやつかな」
「
「もぉ~。最後に掛ける言葉がそんなんで本当にいいの?」
「……ごめん」
「まあ、灰崎君らしいといえばそうなんだけどね」
「そうかな」
「うん」
そういうと、くるりと僕に背をむけ、すたすたと、二三歩歩いて背を向けたまま言った。
「それじゃあ、今の発言は聞かなかったことにしてあげるから、もう一回どうぞ!」
「へ?」
「だーかーら! 今きいたことは、チャラにしてあげるって言ったの。やり直し! 私に言いたいことがあったんでしょ。考えがまとまるまで待ってあげるから。あ、でも時間も少ないから出来るだけ早くしてね」
「うん。……分かった」
せっかく御堂が時間を取って、僕の気持ちが固まるのを待ってくれたんだ。
何を言うべきなんだろうか。
(絵描いたら、メールで送って見せてくれ? ……違うな。)
(御堂のおじさんとおばさんに最近顔を出していないけど”よろしく”と伝えてもらう? ……これも違うな。)
(向こうに行っても元気でな、か……な? あれ、御堂どこに引っ越すんだろ、まあ今はそんなのいいか。……これも違う。)
落ち着いて、もう一度これまでの御堂といた日々を振り返る。
ーーそしてポツリ、と出た言葉は
「いろいろありがとうな。声優になるとかそんなんはまだよく分かんないけど、考えて……みるよ」
何となく言いたいことが言えた。
そう思ったけど、どうにも彼女の様子がおかしい。
肩をプルプル
また的外れなことを言ったのだろうか。
そう思い、そろりそろりと御堂の顔色を伺った。
「……何か変なこと言ったかな」
すると、御堂は僕の目を見て、そして大きくため息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁぁ…」
「な、何だよ」
「せっかく! 私が! 時間を与えたのに! 結局出てきた言葉が”ありがとう”ってどういうこと、ねえ、どういう事?」
「お、落ち着け御堂。 正直に言うとだな……、今言った言葉以上のものを要求されても分からない」
「本当にわからない?」
「分からないよ」
やっぱり的外れな事だったらしい。
「しょうがないな、……もう電車も来るし、答えを教えてあげるよ。目をつぶって」
御堂の気迫に押され、言われたとおりに目をつぶってみた。
(何する気なんだ?)
そう思っていたら急に頬に冷たい感触が当たった。
「え」
驚いて目を開けてみた。
だけどその時には既に、御堂はタッタッタと、走って
「巧! じゃあね! オーディション受かったら連絡してね!」
周りの目など気にせず、「バイバイ!」と言って、御堂は走り去った。
僕は何が何だか分からずただ一言、
「……ああ、御堂もな」
と自分でも聞き取れないぐらいのかすれた声を上げるのが精一杯だった。
——
ここで一章終わりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます