第11話御堂 霊


 御堂御堂 れいとは幼稚園からの付き合いだった。


小中高の11年ずっと奇跡的に同じクラスであった。


 文化祭の時もそうだったけど、今の僕と御堂の関係性は、僕から御堂に話しかけるという事は一切なく、御堂が一方的に絡んでくるという感じだった。


 しかし、それは初めて幼稚園で出会った時からそうだったというわけじゃない。


中学二年生の冬のが起こるまではむしろ僕から内気な御堂に話しかけるという事が多かった。


が起こるまでは。


僕は今の僕を知る人からは、想像できないと思うだろうが、クラスの中心にいて積極的に周囲を引っ張っていく”がき大将”のような立ち位置に居た。


そして、彼女は引っ込み思案で教室の隅で絵を一人で黙々と描く女の子だった。


 まあ当時の御堂はこのときの僕と違って、別に一人でいることを好んでいるというよりは、機を見てグループの輪に入ろうとしようと、絵を描いている最中でもチラッチラッと、視線を送っていたが。


そして、その視線に気が付くのは幼なじみの僕ぐらいなものだから、


「御堂もこっちに来いよ」


 と、グループの皆に聞こえるようにわざと大きな声で、話を振っていた。


そうしたら、待ってましたとばかりに、はにかみながら僕たちの会話に参加してきていた。






☆★☆


 以降、僕は他人との関りを持つことに対して、抵抗を抱くようになった。


学校に行っても読書、勉強、スマホでアニメを見るのいずれかの一人で行う行動しかとらないようになった。


 そのあまりの変わり様に、僕がそうなった事情を知る友人は、最初は見かねて声をかけてくれていたが、一向に態度を変えない僕を見て一人、また一人と僕を避けるようになり、僕の前から消えていった。



——そうして僕は”空気”になった。


孤独感を感じたことは全くないかといえば嘘になるが、その時の僕にとっては一人でいることが自然体だった。


「楽」で快適な学校生活であったことには違いない。


だが、それも教室にいれば御堂がいるという安心感が僕にはあったからなのだと思う。




あの出来事を境に態度が変わったのは御堂も同じだった。


誰か(僕しかいなかったけど)に話しかけられることをひたすら待つだけだった彼女。


それが、自分の絵を描いては、その感想を周囲に聞いてみるなどといったアクティブな面を見せるようになっていた。


誰とも会話しなくなった僕にも常に気を欠けてくれていた。





 今思うに僕は彼女に依存をし、甘えていたと思う。


そして、たった今、御堂は明日から僕の前から姿を消す、という。


あまりに唐突すぎる。





☆★☆


 僕がボォーとそんなことを考えていると、向かい側の席に座っていた御堂がわざわざ僕の席のところにやって来て隣に座って来て言った。



「ごめんね。でも急に引っ越しすることが決まって伝えるタイミングがなかったの」


「いつから…」


「え」


「いつ引っ越しすることが決まったんだ」


「……四日前だよ」


「…そっか」


それからしばらくは、互いに黙りあった。




☆★☆


そこからどのぐらい経っただろう。


御堂はおどけながらもはっきりした口調で言う。


「何よ~。別に一生会えなくなるわけじゃないんだから! いつでも連絡していいからね。現代社会、舐めないでよね! たとえ世界中のどこにいても繋がっているんだから!」


「そ、そうだな」


「……」


「……」






 再び沈黙が訪れた。(いや僕のせいなんだけどさ)




 もうすでに注文した食べ物は食べ終えており、店員さんがお皿を取り下げて僕たちが満員の店を出るように促してくる。


 御堂も察したのか、



「帰ろっか」と言い、僕も「うん」と頷き、会計を済ませた。





















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