第10話別れは突然に


☆★☆


一回目の上映が終わった。


たった5分という短い時間ではあったけど、僕にとっては生涯しょうがい忘れることのできないであろう時間になった。


最後のセリフを言い終え、御堂みどう


「これにて上映を終えます」


 とめくくっても、だれも席を立ち上ろうとはしなかった。


そして静寂を打ち破るように誰かが、



「スゲー! 凄かったぞ!」


「画も素晴らしかったけど、アフレコも凄かったわ。本当に1人でやっているのかしら? とても信じられない!」


「もう一回見たい! 4時からもう一回やるんだろ? 絶対もう一回見に来るぜ!」



 皆一様に、席を立って拍手をし、僕たちの作品を称賛してくれた。御堂は僕のいる放送席に走って来て、こういった。


「ね? 私の言ったとおりでしょ?」



「……そうだね。僕もお客さんの様子を見て、そう実感したよ」



「でも、気を抜かないでね。もう一回上映するんだから! よろしく!」



「……うん」



そして僕は御堂が差し出してきた手をとって握手した。






☆★☆


 二回目の上映は超満員で、立ち見している人の方が多かった。


どうやら、観客の誰かが某有名ぼうゆうめいSNSサイトに僕たちの作品をあげ、口コミが広がったらしい。



打ち上げに行っていたクラスメイトの姿もそこにはちらほらと見えていた。


どうやら、彼らも僕たちの作品の評判が上々であることを聞きつけ、学校に帰ってきたみたい。



数百人はいるであろう観衆に見られながら、無事に二回目の上映も好評をはくして終わった。


上映後、観客にアンコールを求められたが、次の出し物をする人達も居たので、断った。









☆★☆


 その後、御堂と共に近くのファミレスで二人でささやかな祝勝会を開いた。



「お疲れー。いや~あんなに喜んでもらえると作ったこちら側も報われるよね~」


「そうだね。でも殆ど御堂が頑張ってたとおもうけど」


実際そうだし。


だけど、御堂は顔をぷくっと膨らませて、


「またそんな事言って! ……とりあえずこれ見て」


「……何?」


御堂はそう言うと、僕にスマホを見せてきた。


——そこに映っていたのは、さっきのアニメ。



「へぇ……。誰かがアップしたんだな、って五十万回再生? まだ半日もたっていないのにもうこんなに再生されているのか………」


「でしょ? でね、コメント欄を見てみて」


言われるがままに画面をスクロールしてコメント欄を見る。


そこに書かれていたのはーー


イラストがすごい。

高校生の出来栄えじゃない。

cvキャラボイスを一人で、しかもクオリティが高いなんて信じられない…。


実際に体育館で僕たちの作品を見に来てくれた人たちと変わらない感想だった。



「……ふーん」


「反応うすっ。ってまあ、今に始まったことじゃないか……。いい? これはね、世の人たちが灰崎君に才能があるって認めたようなものなの。でね? 私はこの動画のコメント欄を見た時に思ったの」


「……何を?」


「灰崎君の天職は”声優”だって」


「はい?」


唐突すぎるだろ。


でも御堂は相変わらずニコニコしながら、


「いいじゃん。灰崎君、アニメ好きだし、アフレコだって今日分かったと思うけど、十分もっと頑張れば通用するって。……それにもしダメでも私たちはまだ高校生。いくらでも進路は変更できるよ」


「まあ、御堂がそういうなら……。いやでも僕まだ高校生だしそういうのまだ無理なのじゃないのか?」


一度相手の意見を肯定したかのように見せて、理由をつけてていよく断りを入れる。


僕のじょうとう手段であり大抵の人はこれで納得してくれるの。


だが、そこは幼なじみ。


僕がそう言うことも織り込み済みだったらしい。


ちゃんと対抗策は既に打っていた。


「大丈夫! 高校生でも面接してくれる会社を何度かピックアップして、もうすでに、電話してオーディションの日も決まっているから。灰崎君はこの紙に書かれている日付と場所に行くだけいいよ」


そういうと御堂は制カバンから日程と場所が描かれた紙を、サッと僕に渡してきた。


「お前は僕の母ちゃんか」


「何言ってんの。そこはせめてマネージャーて言ってよ」


「……」


「それにね、灰崎君ともだし、最後くらいなにかしてあげようとおもっただけだから……」


「? ちょっと待ってくれ。今って聞こえたんだけど……?」


「うん。私ね……。明日、引っ越しするんだ。だからね、灰崎君と顔を合わすのは今日が最後。今まで黙っていてごめんね」




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