第9話ドッペルゲンガー
体育館に着いた。
クラスメイトは勿論、打ち上げに行っていたのでいなかった。
が、他のクラスの人達や外部の人たちにとっては『自作アニメ』といったテーマは十分インパクトがあったのか。
観客席はまあまあ埋まっている。
人前で話すことをあまり得意としない僕に代わって、ここに来るまで全力疾走して汗だくの御堂が、マイクを持ち、
「えー。お集まりいただきありがとうございます! 嬉しいです! ……まもなく私、御堂とこちらの灰崎君で制作した、いやこれから制作する”自作アニメ”を上映させていただきます! 私はイラスト画を灰崎君はアフレコを担当します。……これから制作するといったのは、まだこのアニメは完成していません。これから作るからです。灰崎君が今から二階の放送席に行きそこで今からアフレコする、つまりは”生アフレコ”をします。それでは、最後に一言灰崎君お願いします!」
そういって、御堂は僕にマイクを渡してきた。
しかし、観客は事前にアフレコしたものを上映すると思っていたのだろう。
御堂の”生アフレコ”という言葉に興奮したのか、しばらくは
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉー」」」
と、体育館全体がどよめいていたので、僕は観衆が静まるのを待った。
やがて、観客は僕が何を話すのだろうと、耳を傾けてきたので、それを見て僕は口を開いた。
「……アフレコ担当の灰崎です。 このアニメは五分と短いですが、登場するキャラクターは皆が知っているような有名なキャラばかりで……、非常に多くて……正直僕一人で上手くできるのだろうかと不安でした。 そしてそれは今もです」
そこでいったん区切りを入れて、僕はちらりと御堂の方を見た。
彼女は僕がアフレコを失敗するなんていうことは微塵も思っていないようで、アニメの成功を信じて止まない表情を浮かべていた。
(御堂は肝が据わっているなぁ…‥…僕が彼女の足を引っ張る事にはいけない)
再び、観客の方に視線を向け、覚悟を決めて息を思いっきり吸い込む。
「しかし、今日この日を迎えるまでに寝る間も惜しんで、御堂さんが描いた2504枚のイラスト画を僕のアフレコで無駄にしたくはありません……。絶対にこのアニメを皆様の記憶に残る良い作品にしたいと思います!」
自分がこんなに大きな声を出せるなんて驚いた。
御堂でさえ驚いていたが、
「うん! 頑張って!」
と、はにかんだ表情を浮かべて壇上でバシーンと背中を叩き(痛い)、放送席に行くように促された。
☆★☆
そして上映が始まった。
スクリーンには彼女が描いたキャラクター達が、生命を吹きこまれた様に動いていて、それに僕が吹き込んだ声で会話をしている。
アフレコ中、ふと観衆たちの姿が目に入った。
みんな僕達のアニメを食い入るように見てくれていた。
そして、そんな彼らの姿を見ている時、ふと以前に御堂が僕に言った言葉を思い出した。
「今はそう思っててもいいよ。上映後には私の言っていたことが正しかったと灰崎君も理解するから」
……あの言葉は……べた褒めじゃなくて、本当のことなんだ。
僕が本当の意味で達成感を噛み締めていたのと丁度同じころ、観客の中の一人の老人がふと、声を漏らした。
「まさかとは思っていたが……、よもやこのようなところで”
そういうと、老人は熱気あふれる体育館を後にした。
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