第17話 情報収集を終えて

 夜になり、情報収集から帰ってきた皆を部屋に集めた俺はそれぞれから話しを聞いていた。


「やはり民の不満は思ったより高まっているようだ。私は酒屋を中心に回ったのだが、皆口々に物の値段が上がっている事を愚痴っていた」


「物価の話でいえば、特に穀物の値上がりが深刻なようです。食卓の中心となる物の値が上がれば、わかりやすく民は苦しみますから、不満は相当なものと思われます」


「そうか……やはり食い物がないってのが一番みたいだな。ダンは? 何か情報を集められなかったか?」


「うーんと、兵隊さん達は色んな人から金を巻き上げてるみたいだっただ」

「金持ち以外からも巻き上げてるのか?」

「んだ。おらみたいな乞食からも奪ってるって言ってただ」


 中央は官に払う金すら渋ってるのか? だとすれば、困窮具合は相当なものだぞ。兵隊なんて本来は一番食わせて金をやらないといけない職業なのに。


「思ったよりもマズイ事態になってるみたいだな……反乱が起こるまであまり猶予はなさそうだ。明日の朝一番にここを出よう。ヘイゼルに戻って準備を進める必要がある」


「かしこまりました。明日の朝一番ですと、9時くらいに船が出るはずです。それに乗船しましょう」

「皆、荷物をまとめておいてくれ。後で俺の方からソウジン家に挨拶に行ってくる」

「私も一緒に行こう。付き合いは大事にしておきたいからな」


「お、その方が嬉しい。スイランさんとサシで話すのは怖いからな」

「ははっ。その様子だと、昼間は相当いじめられたようだな? スイラン殿とはどのような話しをされたのだ?」


「いじめられたなんてもんじゃないよ。生きた心地がしなかった。考えてる事全部見透かしてくるんだぜ? 怖いにも程がある。あの人いったい幾つなんだ?」

「確か、今年で14になるはずだ」


「14!? いや、見た目でそれくらいかなとは思ってたけど、実際聞かされると納得がいかないな。どういう人生歩んできたらそんな風になるんだ……」

「ご希望であればお話し致しますが」

「うぇ?」


 間抜けな声が出てしまった。それもそのはず、話の中心人物であるスイランがいきなり後ろから話しかけてきたからだ。いつの間に入ってきたんだ。


「つい先程です。ノックをしたのですが、お話しに夢中になっていたようで気付かなかったようですな」

 だから人の心を読むんじゃない。そんなにわかりやすいのだろうか。これでも一応、日本にいた頃は何を考えているのかわからない、なんてよく言われたんだけど。


「それはすいません。どうしたんですか? 何か用でも?」

「いえ、夕餉の準備が出来ましたので呼びにきた次第」

「わざわざスイランさんが?」


 侍従にでも頼めば済む話だ。それをわざわざ呼びに来るなんて何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。


「そのように警戒されると悲しいですな。わたくしはただ、気に入った人物と少しでも話しがしたいと思っただけですよ」

「は?」


「ほう。スイラン殿が気に入るとは珍しい事があったものだ。これはいよいよ昼間私がいない間に何を話したのか聞き出す必要があるとみた」

「茶化すなよ、リンファ……本当にただそれだけの理由なんですか?」


「裏などありません。強いて言うならば、昼の続きをしたいといったところですか。良いところで邪魔が入ってしまったので、少々不完全燃焼なのです」


 客人を邪魔扱いとは。一体全体、彼女の中での俺の評価はどうなっているんだ。特に気に入られるような事をした覚えはないんだけどな。


「そうですか。ではせっかく用意していただいた食事が冷めるのもなんです、ごちそうになります」

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