第14話 ソウジン家にて、面談 後編
「して、アオイ殿はどうされるおつもりか」
「当面は引きこもるつもりです。残念な事に我が領地は先代が無能だったものですから、荒れ果てておりまして。とても戦が行えるような状況ではありません」
「国軍につく気はないと」
「え、俺そんな事言った覚えはないと思うんですが……なぜ?」
「引きこもるなど、言ったも同然です。通常、中央からの召集は断れませんから。今後この話をする際は気をつけた方がよろしい。どこに耳があるかわかりませんからな」
末恐ろしいにも程がある。言葉尻を捉えて俺の考えを読むなんて。確かに、俺の考えは見ようによっては中央への反旗とも取られかねない。スイランほどの者がそうそういるとは思えないが、今後は気をつけよう。
「なるほど。忠告痛み入ります」
「それから、わたくしのような小娘に指摘されて虚を突かれるようでは領主としてあまりに頼りない。顔と口調だけでも平静を保てるよう訓練されるのがよろしい」
「ぐっ……そのようにします」
「さて、お願いについてですが、どちらもお受け致しましょう。ただし、条件があります」
スイランほどの人物から提示される条件とはなんだと戦々恐々としていると、
「大規模な一揆が起こった際、逃げ場所としてそちらの領地で居を用意していただきたい」
意外にもなんだそんな事か、という条件だった。
「わたくし達はこうしてシンヨウに居を構えておりますからな。戦となれば被害は免れない。そうなった時の避難先を用意しておきたかったのです」
「その程度であれば、喜んで。ただ、俺の国もどうなるかわかりません。状況次第となってしまいますが、それでも大丈夫ですか?」
「構いません。避難先は何も一つとは限りませんからな」
流石はスイランだ。逃げ道を一つも二つも用意している辺り抜け目がない。
「では、早速今の宿を引き払ってくるので部屋を用意していただけると助かります」
これ以上スイランと話しているとボロが出そうだったので、俺は話し相手をグンロンに変えた。というか、さっさとこの面接を終わらせにかかった。
「ああ、承知した。ちなみに、滞在はいつまでになる予定なのだ」
「目的の大半は果たせたので、二、三日程度になるかと。あまり厄介になるのも悪いですしね」
「かしこまった。滞在中はソウジン家が責任もっておもてなしする事約束しよう」
話がまとまった事で、俺達は二人に礼を言って退室した。
○
「珍しく楽しそうだったな、スイラン」
アオイ達が部屋を後にしてからたっぷり5分が経った後、グンロンは驚いたようにそう言った。
「そうでしょうか……いえ、そうかもしれませんね。わたくしと同じ考えをお持ちの方はなかなかどうして少ないですからね」
「アオイ殿の口からお前と同じ考えが出た時には我が家の密偵かと思ったぞ」
「それはないでしょう。密偵ならばもう少し上手くやるはず。それに、彼は少々青いところがありましたし、何よりリンファ殿が客将とはいえ仕えている人物、多少なれど信用はおけるかと」
「なるほど確かにな。彼女は武も秀でている上に、義に厚い者だからな。ぜひとも当家に仕えてほしいものだ」
「さてどうでしょう。アオイ殿が主君足りえんとなるならば、あるいは再び声をかけてみるのも一興かと」
「そうだな。しかし、アオイ殿は一揆が起こると確信している様子だったな。ヘイゼルとシンヨウではそれなりに離れている。どこで情報を得たのだろうか」
「そこが疑問です。領主であるならばそうそう中央を訪れる暇などないはず。いかにしてあのような考えに至ったのか興味があります」
「スイランの興味を引くとは、一角の人物かもしれんな、アオイ殿は」
「父上、それはわたくしを買いかぶり過ぎというものです。さりとて、彼の素性については滞在している間に見抜く事と致します」
「うむ。そうしてくれ。しかし、大陸全土を巻き込んだ戦となれば、我らも観戦を決め込む訳にもいくまい。スイランもそろそろ仕える相手を探す事だ」
「心得ております」
戦乱の世となれば、覇を唱える者が必ず出てくる。問題はその見極めだ。飲み込まれてしまうような者を主君としてしまえば、自らの命すら危うい。そうなってしまえば面白くない。
(アオイ殿が少々退屈に過ぎる人生に潤いを与えてくれる人物であればいいですが……)
スイランは、侍女の入れた熱いお茶を飲んだ後ほうと息を吐いた。その仕草がまた年齢にそぐわず艶めかしいものであったから、グンロンは思わず娘の先行きが不安になった。つまり、理性を失った男に襲われてしまうのではないかと思ったのだ。だから、
「スイラン、お前は武を鍛える気はないのか」
「残念ながら、わたくしには武の才はないようです。最低限は身につけますが、あまり期待されても困ります」
「そうか……父はお前が心配だ」
「そのように心配せずとも、わたくしはわたくしで上手くやりますよ」
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