第13話 ソウジン家にて、面談 前編
翌日、ソウジン家と話しをつけてきたというリンファの案内でソウジン家を訪れた。
相当上手く家を回しているのだろう、ソウジン家の建物は周囲のそれと比べても一段上のグレードだった。敷地そのものも広いが、家の者が着ている衣服も上等な物だった。
そんな中、俺達はリンファの知り合いという事で持ち物検査などを受ける事もなく応接室らしき部屋に案内された。
「たぶん、これから面接が行われる。そこで滞在が許されるかどうかの判断がなされる。対応はサガラ殿が行う事になると思うが任せて大丈夫か?」
「ああ。むしろ、ここで気に入られないと目的が果たせない。頑張るよ」
暫く待っていると、全身傷だらけの大男と14、5歳の少女が部屋に入ってきた。
「お待たせして申し訳ない。私がソウジン家の当主、グンロンだ。こちらは娘のスイラン。共によろしく頼む」
紹介されたスイランは静かに頭を下げた。細い眉に薄い唇。貴族らしく艶やかな濡羽色の長髪だった。容姿だけ見れば全体的に儚げな印象を覚えるが、纏っているオーラが尋常なほど鋭いので、まるで猛獣と対峙しているかのような錯覚を覚えた。
まだ子供だろうに随分なオーラをお持ちだ。顔の造形が整っているから鉄面皮も相まってまるで彫刻像のよう。髪飾りの白百合がなければ本当にそう見える。
「お名前を伺っても?」
スイランに気圧されていると、グンロンがそう言った。マズイマズイ、ここで気に入られなければ中央の情報を集めるという作戦が頓挫してしまう。気合を入れなければ。
「失礼。私はヘイゼルの領主サガラ・アオイ。こちらはメイドのノア、下男のダンです。そして、こちらのリンファには現在我が家にて客将として働いてもらっています。以前、リンファはソウジン家にて客将を務めていたと聞きましたので、本日はその縁を頼ってお願いに参りました」
「お願いとは?」
「端的に申しまして二つです。一つはシンヨウに滞在している間、こちらの家を宿として使わせていただきたい事。もう一つは、我々がヘイゼルに戻った後中央の動きを教えてほしいのです」
「ふむ。宿に関しては部屋も余っているので好きに使ってもらって構わないが、二つ目の願いが問題だな。我々に密偵になれという事か?」
「いえ、そこまでのお願いをするつもりはありません。どちらかというと、市井の情報がほしいのです。特に、一揆の起こる気配など」
そう言うと、それまで沈黙を保っていたスイランが初めて口を開いた。
「一揆の起こる気配、とはこれまた異な事を仰る。どういう意図を持っての発言かお聞かせ願っても?」
「私は近い内に大陸全土を巻き込んだ大規模な一揆が起こると睨んでいます。先だって発生した一揆はそれの前触れと思いまして」
「なぜそう思われる」
「今年は気候の問題もあり、全国的に不作でした。そういう場合、中央が国庫を開いて民の生活を安定させるのが定石ですが、ご存知の通り中央は腐敗しきっています。何か対策を練っている様子もない。となれば、当然の流れかと」
「ふむ。仮にそのような一揆が起こったとして、アオイ殿は国軍が勝てるとお思いか」
「無理でしょうね。俺の予想では国軍だけでは一揆衆を抑えきれなくなり、周辺諸国の兵を借りる事になると思っています」
「なるほど。国軍の弱さが露呈してしまうと。その後は?」
「中央はお飾りになるでしょう。群雄が割拠する戦乱の世の訪れです」
「よろしい。概ね、わたくしの考えていた通りです」
この子本当に子供か? 見た目と頭脳が釣り合ってなさ過ぎる。俺がこんな事を予想出来るのはゲームの知識があるからだ。アザゼルの乱が起こると知らない一人の人間が今の状況だけ見てそこまで予想が立てられるものかね。流石は司馬懿仲達といったところか。
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