第11話 中央への報告
流石に王朝の設置された国だけあって、シンヨウは路上に死体が転がっているような事はなかった。が、それだけだ。よく見れば民はボロ布を纏って乞食に身をやつしている。
民の飢え具合はここもヘイゼルもあまり変わりはないようだった。むしろ、建物が立派な分、余計困窮具合が目立つように感じた。
「以前私が訪れた時はこんな風ではなかったんだがな。少し見ない間に酷い有様だ」
「たぶん、王宮に入ったらその感想はもっと酷くなると思うぞ。一応、何があってもいいように準備だけはしておいてくれ」
「出来れば虹龍の槍は使いたくないな……」
リンファはそう言って自身の持つ槍の切っ先を見つめた。素人目に見てもわかる。立派な名前に恥じないまさに名槍だ。
戦ならばともかく、こんなくだらない場面で汚したくないというリンファの気持ちはよくわかった。
「そうだな……俺も、血は見たくない」
そんな願いが通じたのだろうか。中央への報告は身構えていたような事もなくスムーズに終わりそうだった。もちろん、行く先々で賄賂を求められたが、それは予想された事だ。
今はようやく目的の人物にたどり着く事が出来たところだ。後はこの隠せないほどの肥満で服がはち切れそうになっている男に報告すれば今回の用事は終わりだ。
「とまあ、今年は例年に比べ作物の出来が悪かったので、税収それ自体が減っています。なので、この辺でご納得いただければと。来年からはもう少し増やせる見込みがありますので」
「ふむ……そうか。足らんが、それはどこも同じ。お主のところだけ無理を言う訳にもいかんな」
醜悪な見た目とは裏腹に、存外まともな男なのかもしれない……と思ったのもつかの間、男は「それはそうと何か渡すものがあるんじゃないか?」と言った。
一瞬でも見直した俺がバカだった。どいつもこいつも賄賂賄賂。頭がおかしいんじゃないか? 苦労して得た地位でやる事が賄賂の受け取り、置物でも出来る事だぞ。ともあれ、
「これは失礼……どうぞ、お納めください」
そう言って文字通り袖の下からそれ用の巾着袋を出して渡す。が、男はその中身を見て不満気な顔を見せた。
「……足りなかったですか?」
「ああ、足りんな。まるで足りん」
「参ったな、これ以上は滞在費に困ってしまう。次回まとめてお渡しするので、今日のところはこれでなんとかならないでしょうか」
「駄目だ」
「そう言われても……他に渡せるようなものも無いしな……」
「あるではないか。先程からお主の横に立っているその娘。その娘を一晩貸してくれるだけでいい。なに、怖がる事はない。優しく可愛がってやるぞ……うひひ」
ちくしょう……最初からそれが狙いかよ。どうする。リンファは客将だ。俺の一存でどうこう出来る立場にはない。それに、知り合いが身体を売るってのも気分が悪い。
やはりここは滞在費を削ってでもこの男に納得してもらうしか――。
そう思っていたら、リンファはニコリと男に笑いかけたかと思うと、ツカツカと近寄っていった。そして、男の陰部スレスレの場所に虹龍の槍を突き立ててこう言った。
「すまない、私は耳が悪くてな。もう一度言ってもらえないだろうか?」
「ヒッ! いや、あの、その……」
リンファは虹龍の槍を更に陰部に向かって傾ける。リンファには悪いが、少しだけ男に同情してしまった。こんな事をされては大抵の男は萎縮してしまうだろう。
「ん? そんなんじゃわからないぞ。もっとはっきり喋ってくれ」
「な、何も言っていない! 報告は終わりだ! 帰れ!」
「そうか。という事だ。帰ろうか、サガラ殿」
「お、おう……」
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