第10話 中央への旅
念願の護衛が出来て一安心……とはならないのが戦乱の火種燻るこの世界の悲しいところである。
リンファとダンを仲間に引き入れた俺達は、宣言通り中央へと出向した。名目は税収の報告である。正直こんなものに領主である俺が直接行く必要はないのだが、中央の様子を確認したかったのでわざわざ船に乗って出向いたのだが、王朝のあるシンヨウに到着した早々トラブルに見舞われた。すなわち、
「だーかーらー俺達は中央に税収の報告に来たって言ってんだろうが! なんで拘束されねえといけねえんだ!」
船を降りて早々、憲兵らしき人物達に怪しい奴呼ばわりされて説明の間もなく牢屋にぶち込まれてしまったのだ。
こんな事になるのならリンファに憲兵を倒してもらえばよかった。波風立つのを恐れて臨戦態勢に入った彼女を止めた過去の俺が憎い。
「どうするんだ、サガラ殿。この程度の牢屋なら、今すぐにでもぶち破れるが」
一瞬やってもらおうかと思ったが、今の段階で中央と険悪な関係になるのはマズイとすぐに思い直した。ここはなんとか穏便に済ませた方が後々の利益になるはずだ。
「いや、それは最終手段だ。相手の出方を待とう」
憲兵達は今所持品検査をやっているが、それが終われば今度は直接俺達を詰問してくるつもりだろう。そんな面倒は避けたい。何か良い手はないか、そう思っていると、ノアが服の袖を引っ張ってきた。内緒話をしたいらしい。
「ご主人様、まともに話しても暫く拘束されてしまうのは見えています。ここは素直に賄賂を渡すのが良いかと思われます。元々彼らもそのつもりでしょうし」
なるほど一理ある。が、本来そういった行いを取り締まる憲兵がそれでいいのかとも思ったが、金で解決するならそれに越した事はない。
「憲兵さん……これを」
門番に立っていた憲兵に気持ちばかりの金を握らせる。すると、彼は下卑た笑みを浮かべた後何食わぬ顔で牢屋の鍵を開けた。
「どうやらこちらの手違いだったようだ。もう帰っていいぞ」
あまりにもあっさりと解放された。本当に拍子抜けするほど簡単だった。
湿っぽい場所から外に出た俺達は口々に文句を言った。
「いくらなんでも酷いとは思わないか? 船に乗っていた人間は他にもいたはず、なぜ私達だけが拘束されたのだ」
「恐らく私達の身なりが良かったからでしょう。彼らも貧乏人を捕まえるほどバカではありませんから」
「おら殺されるんでないかと怖かっただ……」
「まったくだ。中央の腐敗具合は話に聞いていたが、ここまで酷いとは思わなかった。こんな調子じゃ用事を済ます前に路銀が尽きちまう」
「そうならないために、早く王宮に行って身分を保証してもらいましょう」
「そうしよう。用が済んだらこんなところからはおさらばするに限る」
という訳で、先に今夜の宿を取りに行っているノアとダンに別れを告げ、俺とリンファは中央に報告に向かう事にした。
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