第9話 リンファ(趙雲子龍)を勧誘 後編
「そちらの方は?」
と言ったノアを手招きして、耳元に口を寄せて小声で話す。
「彼女が例のリンファだ。なんとしても好印象を持ってもらう必要がある。頼むぞ」
「かしこまりました」
ノアはリンファの側に移動すると、恭しく一礼をして「アオイ様のメイド、ノアでございます」と挨拶をした。
「カンメイ・リンファだ。よろしく頼む」
「カンメイ様はご主人様とはどういったご関係で?」
「リンファで構わんよ。なに、酔っ払いに絡まれていたところを助けただけさ」
「……またですか」
ジトっとした目で俺を見てくるノアに対し、「まあ、そういう事」と返す。
「どうやらご主人様の危ないところを救っていただいたご様子。ありがとうございました」
「礼を言われるほどじゃないさ。それに、こうして飯と酒を奢ってもらっているからな、これではこちらが礼を言うほどだ。それはそうと、そろそろ私の質問に答えてほしいかな。サガラ殿?」
俺はその問いを「あまり大きな声では言えないけど」と前置きして小声で話す。
「中央は近々滅ぶ。より具体的に言うと、反乱を起こした民衆を、正規軍が抑えきれなくて瓦解する。そうなればもう、群雄割拠するめちゃくちゃな時代の訪れだ」
「根拠は?」
「ない。けど、国を渡り歩いてきたリンファならわかるんじゃないか? 民衆の不満は思っているよりも高まっている。誰かが旗頭になれば、それこそ今にでも爆発しかねない程に。そして俺は近々誰かが旗頭になって組織だった一揆が起こると見ている」
思うところがあったのだろう、リンファは考え込む素振りを見せた後、「確かに」と言った。
「だからこそ俺は、この国を国として成立する段階までもっていく必要があるんだ。じゃなきゃ、ヘイゼルは大国に飲み込まれて終わってしまう」
「……驚いたな。そこまで先見の明を持っている人間が、このような地方で燻っているとは思わなかった。サガラ殿は手柄を立てて中央に行こうとは思わないのか? お主ならばなんとか出来るのでは?」
「無理だね。中央は腐敗しきっている。滅亡は定められた事なのさ。今更俺一人がどうこうしてもなんともならない。そこで相談なんだけど、リンファさん、俺の配下になってくれないか? 君のように強い武官が必要なんだ」
俺の一世一代の願いはしかし、難しい顔を見せた彼女に断られてしまった。
「……理由を聞いても?」
「サガラ殿の言う事、いちいちもっとも。しかし、私自身この目で見なければ決断出来ないのだ。私はあまり頭が良くないからな、サガラ殿の言うように先を見通す事など到底出来ないのだ。なればこそ、自身の目で見て判断したい。それからでは遅いだろうか?」
いつ戦乱の世が訪れるともわからないし、彼女ほどの実力があればすぐにでもどこかに引き抜かれてしまうかもしれない。今ここで逃すのは惜しすぎる。となれば、
「ならこうしないか? 近々俺は中央に行く予定だ。その時、一緒についてきてくれないか? ちょうど護衛がノア以外にいなくて困っていたんだ。もしついてきてくれたら、俺の言っている事が嘘じゃないってわかるはずだ」
「それはつまり、客将という事か?」
「リンファさえよければ、だけど、そうなるな」
「……うん、それならその時に判断も出来るだろうし、路銀も尽きかけていたからちょうどいい。これよりカンメイ・リンファはサガラ殿の客将となろう」
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