第8話 リンファ(趙雲子龍)を勧誘 前編
酔っ払いを追い払ってくれたお礼という事で俺はリンファを席につかせた。彼女の飲食代を俺がもつのだ。最初は難色を示していた彼女だったが、俺がしつこく言うと、しょうがないといった感じで座ってくれた。
この機会を逃す訳にはいかない。なんとしても彼女に好印象を持ってもらい、陣営に引き込む必要がある。
「いや、本当に助かりました。お礼に好きなだけ飲み食いしてください」
「本当にいいのか? 言ってはなんだが、私はその辺の男より食べるぞ?」
「お礼ですから、どうぞ好きなだけ」
「そうか。ちょうど路銀も尽きかけていたんだ、ありがたい」
言って、リンファは目深に被っていたフードごとローブを脱いだ。その瞬間、俺はあんぐり口を開けていたと思う。というのも、そこには絶世の美女がいたからだ。
年の頃は20前半程度だろうか。サラサラの金髪に、碧眼。整った目鼻立ち。シミ一つない白い肌に出るところが出て引っ込んでいるスタイル。リンファは外国的な美の要素をこれでもかと詰め込んでいた。
「きれいな人だべ……」
ダンも食事の手を止めて見惚れていた。それほどまでに隔絶した美を彼女はもっていた。
「はは、よく言われるよ。店主、酒と食事を持ってきてくれ」
言葉通り、言われ慣れているのだろう。普通の人なら謙遜して然るべき場面だが、彼女が言うとまったく嫌味を感じなかった。
「そういえば自己紹介をしてなかったな。俺はサガラ・アオイ。この国の領主をやっている」
そう言うと、リンファは眉をしかめた。さもありなん、噂でしか俺の事を知らない彼女にとって、俺は民を苦しめる悪徳領主なのだから。
「噂では随分好き勝手やっているようだな? 私はあまり金持ちの施しは受けたくないのだが……」
「どんな噂かはおおよそ予想がつくが、その噂は俺の上の世代の話だよ。俺はついこの間この国の領主になったばかりだ。だから、リンファには噂に惑わされずに、俺という人間を見定めてほしい」
「自分は父上とは違うと言いたいのか?」
「少なくとも民を飢えさせて自分だけ贅沢三昧しようとは思わないね」
「言うじゃないか。口だけじゃなく、具体的に行動は起こしているんだろうね?」
「なったばかりな上に、家人の大半が夜逃げしてしまったからあまり大きな事は出来てないけど、とりあえずの方策として税を下げて田畑の管理者を開拓者にした」
俺の発言に、リンファは感心したように「ほう」と言った。ツカミは良いようなので、俺は更に今後の展望を話す。
「最終的には地産地消が行えるように開拓を進めて、その上で特産物を生産しようと思っている。幸い、ここは長江が近いから中央との物流がいい。外貨を稼ぐにはぴったりだ。そこまで計画が進めば、少なくとも今よりは民が飢えて死ぬ事も減るだろう」
「なるほどな。噂ほどボンクラという訳でもないらしい。そこまで考えているのなら、当然中央の動きも知っているのだろう? それについてはどう考えている?」
リンファは中央と称したが、アザゼルの乱が起こる事を知っている俺からすれば、中央はどうせ潰れるのでどうでもいい問題だ。しかし、この情報は俺以外に話しても何をバカなと一蹴されてしまうような内容だ。
さてどうしたものか、と悩んでいると、タイミング良く花を摘みに行っていたノアが戻ってきた。
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