第28話 迫る危機
昼食の時間を終えた生徒達は、班別に別れてアルレガリア内部を見て回ることとなった。各班に二名ずつつけられた護衛と共に、彼らは戦争の跡を目に焼き付けていく。
―――朽ち果てた大通りに響く声が一つ。
「ふざけないで下さいっす!なんでこの人が俺たちと一緒の班になるんすか!」
それに呼応して、もうひとつの声も響く。
「出やがりましたっすね!俺の偽物!」
「偽物はそっちっすよ!!」
「なんすかそれ!!」
「この二人何してるの?馬鹿じゃないの」
「リオネルは黙ってるっす!重要なことなんすよ!」
先程から己のアイデンティティを侵害されまくっているテッドが、怒りも露にリオネルへ詰め寄った。
「そうっすよ!これは俺たちの問題っす!」
それに続いて、ふざけた表情のフェリクスがリオネルにやはりふざけた声色で叫ぶ。
「なら勝手にしなよ。僕は知らないからさ」
周囲が騒がしくてもリオネルはどこ吹く風だ。頭の後ろで手を組み、のそのそと先へ進んでいく。
「一人で行くんじゃないわよ!班行動しなさい!」
「消えようって訳じゃないんだからいいじゃんか」
「駄目に決まってるでしょう!」
「まあまあ、取り合えず落ち着けって」
「《あんたのせいよ!!》」
自らを棚にあげた台詞を吐いた無能用務員目掛けて、シャルロットは怒りのままに魔術を発動させた。だが、いつまでもそれを食らうフェリクスではない。彼はぬるりと動いて火矢を回避し―――
「《曲がれ!》」
普段の訓練の成果を存分に発揮したシャルロット。一度棚上げ用務員に回避された矢は、軌道を直角に曲げて対象の尻に直撃した。
「あっぢぁああ!!!死ぬ!これ死ぬ!火力上がってんだろ!?」
のたうち回る社会不適合者。
それを見るエリュシエルは唖然と固まっていた。
「エリュシエルさん、あの面白い方はなんなんです?」
「モルド……。さあ、私にも分からんよ」
そう吐き捨てたエリュシエルは、ゴミ虫を見るような視線をフェリクスに向けている。しかしその中に複雑な光を見て、モルドは何かがあるのだと悟った。
「―――変な人ですね」
変な人ことフェリクスは、天使と化したエリナに消化作業を手伝ってもらっていた。
??
「ここが第四商店街だった場所だ」
勝手知ったる庭とばかりに、目に見えるもの全てを説明しながら進んでいくモルド。エリュシエルも含め、皆が彼の言葉に耳を傾ける。
「…ぃ…ん…?……で…」
「第四?全部で幾つあったんですか?」
質問したエリナの言葉をしっかりと拾うシャルロット。
「確か、最終的には十三だったな」
「多いのですね」
「戦争で孤児の数が多くなってしまってな。黒騎士様が、路頭に迷った子供を雇う受け皿にしたんだ。店員の大半は年端もいかない子供だった」
「孤児院にすればよかったんじゃないっすか?」
「そんな余裕は、当時のアルレガリアには無かったんだ。誰も彼もが見えない明日と戦っていた」
実際に戦争を生き抜いたモルドの言葉が重くのし掛かる。シャルロットたちは、魔術を扱うことの意味を考えさせられる。
エリナなどは特に考えなければならない。人より遥かに優れた力は、使い方を誤れば殺戮の道具になり下がるのだから。
「…ぁ……」
この景色をしっかり記憶に焼き付けようと、周囲を見渡していたエリナ。彼女が後ろを見ると、数ある瓦礫の内の一つの前で立ち尽くすフェリクスの姿があった。
その瓦礫に紛れる看板のようなものを見るに、元は菓子屋だったのだろうか。彼にとってはただの瓦礫。なんの関係もないはずなのに、それを見つめる目は確かに揺れている。
なぜだが、どうしてかフェリクスを放っておけなくて、エリナは集団から離れて彼の隣まで歩いた。
「おう、どうかしたか?」
フルフル。
「…………」
「また、こんなことが繰り返されるんだろうな」
「…な……で……ぅ」
「いや、全く読めねぇよ」
「…う…ぅ………」
落ち込んだエリナは、しゃがみこんで地面に文字を綴った。その文字を目で追って、フェリクスはため息をつく。
「なんでそう思う?ねえ。そんなの簡単だろ。地上に人間がいるからだよ」
「?」
「―――何してるのよ!早く行くわよ!」
「へいへい。ほら、先行くぞ」
コクコク。
先に歩き出すフェリクスと、そのあとに続くエリナ。
エリナはフェリクスの背を見て、そこに消えてしまいそうな儚さを感じた。
??
アルレガリア作戦本部だった建物の指揮官室にて。
「ルギウス=フォン=シュナウザーに付いた護衛は大したこともない。このターゲットは直ぐにでも排除できるだろう」
既に朽ち果てた建造物。闇に紛れて一人の男が言った。
「そうか。なら、ルギウスはそちらに任せよう。問題はエリナとシャルロット=フォン=グラディウスだ。ターゲットが固まったところまでは好都合だったが、最悪なことに護衛に付いたのが『白氷』と『黒の右腕』だ」
かたや七魔導、かたや英雄の腹心だった男。どちらも簡単には抜けない。二人を出し抜いて対象を殺すのは不可能に近いだろう。
だが、集まった彼らに迷いはなかった。暗殺者の一人が静かに立ち上がる。
「右腕に関しては俺に任せろよ」
「策があると?」
「策なんて無くても勝てる相手だっての。俺が一人で右腕を抑えれば、四人で『白氷』の相手ができるだろ?」
「お前の言葉は信用しないが、一考は講じよう。二日間あるのだ。まだ焦ることはない」
「ま、それもそうだな」
人知れず殺しの計画を立てる男たち。
だが、彼らは知らない。最も警戒すべき男がターゲットのそばにいて、その人物が全くマークされていないことを。
暗殺実行の時は近い。
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