第6話「お姉さんに叱られる」


「神木、政宗……いい名前だねっ。こう、なんか――力強い感じがしますっ!」

「そうですかね……? 恥ずかしいですね、名前を褒められるのっ」

「本心ですのでっ。それに、伊達政宗みたいで響きがかっこいいですよ?」

「恐れ多いですよ、そんなの……俺には」

「いえいえ、知ってますから私」

「えっ——?」

「あっ……えと。その、政宗君がいい人だってことですっ!」


 少し戸惑いながらサムズアップして褒めてくれる柊さんはとても可愛かった。少しあたふたしていたのはちょっとショックだけど。


「で、でもコンビニで結構顔あわせているのにいっつも優しかったので……それに私以外の店員さんにも態度変わらなかったですし」

「え、あぁ? まぁ、それくらいは普通じゃないんですかね」

「普通をできるのが凄いんですよ?」

「っ……あ、ありがとうございます」


 この距離で褒められるのは普通に照れる。

 ひねり出してくれたのだろうけど、それでもやっぱり嬉しいな。


「でも柊さんも可愛いですよ?」

「え、か、かわっ……」

「あっ——えと、その……いきなり気持ち悪いですよね?」

「そ、そんなことないですよ! むしろその、嬉しいっていうか……あんまり言われたことなかったので」

「ないんですか?」

「は、はいっ……きっと本気で言われたことはないと思います」

「本気?」

「その、はい……過去に色々とあって上司とかに」


 少しだけ悲しそうな表情で呟く柊さんを見て、少ししまったと思った。触れてほしくなさそうだし、あんまり言うべきではなかったかもしれない。


「あ、そのすみません……」

「いや、いいんです。今は大丈夫ですし、それに……政宗君に可愛いって言われるのは嬉しいのでっ!」


 ニコッと笑みを向けられ、ドキッとして俺は目を逸らした。


「あ今、目を逸らしましたね?」

「い、いや……別に」

「そんなに女の子に目を向けられるのが嫌なんですかぁ?」

「な、慣れてないだけですって! ほんとに……嬉しいですよ!」

「へぇ……嬉しいんですねぇ」


 すると、ニマニマと何か企んでそうな表情をして、さっきまで人一人分ほどあったはずの距離がぐぐぐっと近づいてきて、こっちを向くようにしているせいか生膝がくっついていた。


「うっ……ち、近いです」

「わざとです」

「そ、その胸だって――」


 露出度の高い服で上目遣いはやばい。

 何がヤバいかは言わずもがなだろう。


 そして、さらに近づき耳元でこう囁いてきた。


「——見せてるんですよ?」


 言ってからすぐに顔を話す柊さん。

 うぐっとなっている俺に嬉しそうな表情を向ける。


 しかし、俺の反応を楽しんでいるかのようにより一層笑顔を増していた。

 さっきまでリードされたいとか言っていたのに、何だ急にこの距離の寄せ方は。


 と、驚きつつも嬉しい気持ちも芽生えてくる。

 なぜなら、俺は今合法的に生上乳を見られているのだからな。


 って、そんなこと言っている余裕はない。今にも溢れ出そうな鼻血を止めようとしていると。


「じょーだんです。、さすがに見せませんよっ」


 再びいたずらな顔で「だーめ」と言ってくる柊さん。

 俺は思った。


 一晩こんなお姉さんと一緒で耐えられるのだろうか、と。

 明日には羞恥心と幸福感で頭がてるバグっているかもしれないな。


「……や、やめてくださいっ。揶揄うのっ」

「あはは……そっちから触ってきたら別に問題なかったですけど」

「んな、そんなことするわけ」

「ヘタレさんですね」

「……自覚してます」


 そんなことは分かっている。じゃなきゃずっと一人じゃn——以下略。


「そう言えば、ご飯食べてないので食べてもいいですか?」

「ご飯ですか? あ、そ、そうですね! すみません……私、なんか色々と」

「いえ、大丈夫です。テレビとかでも見ててください」

「はい、お構いなく……って、あの」


 そう言って、先程買った弁当を取り出そうとすると柊さんは首を傾げた。


「な、なんですか?」

「もしかして毎日弁当食べてるんですか?」

「え、まぁ……そうですけど」


 認めると、いきなり立ち上がる。

 そして、こっちを見て一言。


「だ、駄目ですよっ! 毎日コンビニ弁当じゃっ!」

「……っ」

「あ、す、すみませんつい……でもその、あんまり身体によくないんですよ! このお弁当は。もちろん、たまに食べるくらいならいいですけど毎日なんて」

「わ、分かってるんだけどな……めんどくさくてついさ」

「皆さん、いっつもそうやって……私、結構心配しちゃうんですよ」

「あはは……すみません」

「もしかして、朝昼もそうですか?」

「朝は食べてないかな? まぁ、昼も菓子パンとか」

「っ——」


 何気なく言ったつもりが一気に顔面蒼白になっていた。

 え、そんなにだめだったの?」


「そ、それは……深刻です」

「え」

「分かりました。私が作ります! そんな弁当今すぐ捨ててください!」

「い、いやそれはいいですよ! 勿体ないし、柊さんに悪いですって!」

「じゃあ私が食べるんで、いいですね?」

「え、ぁ」

「はいっ! そういうことなので待っててください!」


 はっきりとそう言って俺が止める間もなく台所へ走っていく。

 結局、何も言い返すことができずソファーに座って待つことにした。



 

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