第8話 明かされる真実
——一方、羽月達は警察部隊総本部内、三〇一隊、相良達に割り当てられている部屋で話し合っていた。
「老害共には、対処出来てるな?」
窓際に寄りかかり腕組みしながら、羽月はデスクチェアに座っている三人に質問した。
「言われた通り、盗聴されているかも知れないから答えられませんって、言ったッス」
広げた脚の間に両手を付き、旭は質問に答えた。
旭の服装は、昨晩のような私服ではない。下はジーンズ、シャツの上にジレベストを羽織り、上着とネクタイは無し。かなりラフな服装だが、旭の中では、オフィスカジュアルだ。童顔のせいで、スーツを着ると高校生に見えてしまうから、普段はこのスタイルが多い。
「了解。問題はねぇな?」
「ねぇよ」
「ないッス」
「ありません」
全員、平然としているが大問題な行動だ。無許可出撃の上に報告も無しは、厳しく罰せられる規則及び命令違反になる。
「天下りした金と権力の亡者共だ。邪魔でしかない」
上層部への敬意を微塵も感じさせずに、羽月は吐き捨てた。
「今回の黒幕、アーチェ・レガイロも天下りだしな。なぁにが、経営コンサルタントだよ。金儲けに、襲撃仕組むサイコパス」
背もたれに寄りかかりながら、心から軽蔑している様に伊吹は言い放つ。
規模は違えど、ドラキュラによる襲撃事件は、侵略時から世界中で頻繁に起きていた。
「ドラキュラによる襲撃が起きると、保険会社や防災関連、建設業界が利益を得ます。業務を斡旋すれば仲介料で儲け、株でも相当儲けられる。利益のみに着目し、容易に暴けましたね」
那智は羽月と視線で同意を交わすと、沢山の書類が入った封筒を、引き出しから出した。
「余罪も、こんなに有ります」
現在、殆どの書類は電子化されているが、法的な重要書類は紙面のままだ。
「充分持ってるのに、悪い事してまで金が欲しいか? 月二十五万貰えれば、殆どの独身は満足するのに……」
旭には、全く理解出来ない発想だった。
「マトモじゃねぇからだよ。イカれの考える事は、マトモの常識からは逸脱する」
旭に視線をやり、羽月は平坦な口調で言い捨てた。
「賞賛も得られてますから。もっと賞賛されたいという欲求も、あったのかも知れませんよ」
那智が言う欲求すら、旭には理解不能だ。
「こいつが入国すれば、必ずデカい襲撃があった。日本に入国した時点で、公安に協力要請して正解だったな」
言いながら煙草を出し、羽月は喫煙し出す。
前に座っている非喫煙者の那智に配慮し、窓は開けた。灰皿は、窓枠に置いてある。
「——リリア王女誘拐は踏み絵だな。ドラキュラ共が出した、手を組む為の条件だ」
身勝手な事実を、羽月は冷たい無感情な声で告げた。
日本では、国際対イーブル軍は警察庁、外務省、防衛省と三つの管轄下に大本営を置いている。他国でも、二つ以上の省庁管轄下に置かれる。
軍人になる迄は、国際対イーブル軍養成施設で必要な教育を受ける。満十一歳になれば、誰でも入校が可能。戦闘陸軍は十八歳、戦闘空軍は二十歳で卒業要件を満たせば、正規軍人になれる無認可の教育機関だ。通信、技術部隊、戦闘以外を担当する部隊は、必要単位を取得したら卒業となる。
無認可の教育機関の為、公的な学歴にはならず、高卒認定試験を受ける必要がある。その事が、学歴と教養が不十分という偏見を生み出し、上層部の天下り採用を後押しする事に繋がった。
国際公務員は、地位は同じだが警察官や自衛官という国家公務員より給料が上回る事も、天下り希望者を増やす原因になっている。
「……つーかぁ、今見てもウケるっ。とても今年で二十五には見えねぇ」
スマートフォンを手に、伊吹は笑い出した。
画面は、高校生の制服を着た旭だ。軍人だと周りに気付かれないよう、変装をして大臣に会っていた。
「あぁっ、言える見た目じゃねーだろっ⁉︎ ホストかチンピラっ!」
目と眉を吊り上げ、中指を立てて旭が怒る。
上官にタメ口は問題行為だが、兄弟のように二人は言い合う。
——突然、羽月のスマートフォンが鳴った。警報のような音だ。
羽月は、スマートフォンの画面を見て、出ている画面を消し、音を消す。電話をかけた。
「洗浄中は開けるなよ。止まるから」
「ごめんなさい。気になってしまって……」
リリア王女が、浴室の自動洗浄機能が気になり、扉を開けてしまった。それが、セット元であるスマートフォンが鳴った原因だった。
「魔界にない便利家電がいっぱいで、羨ましいです」
浴室の扉を閉めながら、リリア王女は言う。
「なら、俺のノート(ノートパソコン)で、調べて買って帰れば? 暗証番号はメールしておく」
遠慮気味に「いいんですか?」と聞くリリア王女に「あぁ」と羽月は了承した。
「あの、言われた通り出ませんでしたけど……。電話が何度かあった人のお名前、お伝えしましょうか?」
「必要ねぇ。しつこかったら電源切っとけ」
連絡無視も、完全な問題行為である。
リリア王女は戸惑いながら「……はい」と了解した。
「お世話になっていますので、何か、やっておいて欲しい事って御座いませんか?」
「ねぇよ」
「じゃあ、お夕飯作らせて下さい。家では、日本人の元シェフの方から教わっていましたし、監禁中も料理はしていましたから出来ますよ」
「羽月ん家、調理器具無いし、冷蔵庫には、酒とアイスボックスしか入ってねぇよ」
羽月は、耳に当てずに手に持って話していた。三人は会話を聞きながら黙っていたが、伊吹が口を挟んだ。
羽月は、スマートフォンを伊吹に渡し、会話を促す。
「ウチにある調理器具と調味料使いなよ。代わりに俺のも作ってっ」
「ありがとうございます。志保さんは?」
「いらないよ。志保は、六時半に仕事に行くから」
にこやかに会話している伊吹を横目に、羽月は那智と向き合う。
「秘書官から連絡がありました。約束は一時間後です」
穏やかに告げる、色素の薄い那智の瞳が不穏に光っている。眼鏡のレンズ越しでも分かる。
「——了解」
あくどい微笑で羽月は応えた。
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