第14話 最悪な存在


 俺はとうとうドラゴンに噛まれてしまった、かと思った。


「え?」


 しかし、ドラゴンが噛み付いていたのはなんと今しがた俺が触って、謎の言葉を唱えた木の方だったのだ。


『おい、何をボーッとしてる! 今の内に早く逃げろ!』


 ルシファーのその声で我に帰った俺は、慌てて足ぞ動かした。


 ❇︎


「ふぅー、危なかったー」


 今度こそ本当に死ぬかと思った。それにしても何故ドラゴンは俺じゃなくて木に噛み付いて痛んだ? いや、そりゃルシファーが何かしたんだろうが……一体何故だ?


『アレは俺の技の一つ、天在だ。一時的に自分の存在感を好きな物質に移動させるというものだ。ただし、生物には移せないからそこんとこは注意しろよ』


「なるほど、だからっていうんだな」


 って、それはただのデコイってことだよな? というかそれはもはや身代わりの術の劣化版なのでは? やりようはある、なんて意味深に言ってたから何か凄い術が展開されると思っていたんだが、案外ショボいんだな。


『おい! ショボいってなんだ! 俺様の力が無かったら貴様は今頃死んでたんだぞ!? 感謝こそしろ、ショボいはないだろ、ショボいは!』


 どうやら本人も自覚はあるようです。


「さてはお前、天使の中でも弱い方だったんじゃないのか?」


『は、んなわけねーだろ。ルシファーだぞルシファー、天使の中でも最強格だったってーの』


 全く、怪しいもんだぜ。いくら元天使でも、この世界でも強いとは限らないだろうしな。そもそも天使に戦闘力って必要なのだろうか? 


 まあ、そんなことより、俺の作戦が失敗したんだ、次の策を練らないといけない。ただでさえスタートダッシュが遅れているのだ、今から普通にモンスターを狩り始めたところで到底他の参加者には追いつけないだろう。何か良い方法は無いのだろうか。


「あ、そうだ。これってテンザイを発動してる時にまた発動したらどうなるのか? 前の存在は消えるのか?」


『ん、何をするつもりだ? っておい!』


「テンザイ」


「グァアアアアア!!!」


 あ、前の存在は消えるみたいだな。流石に複数体出現させるのはダメか。でもこれで十分だ。


 自分が捕食していた存在が突然消えると、ドラゴンの矛先は当然新たに出現した存在に移る。そして、その存在すら消えてまた別の存在が現れたら?


『おい、お前まさか……』


 ふふっ、そのまさかだよ。今から正攻法でこの試験に向かっていたら絶対に間に合わないからな。


「よし、最凶最悪モンスタートレインの出発だー!」


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