第10話 アックス
「フライハイト様〜、アックス・フライハイト様ー!」
「はっ、お、俺か」
クソ、新しい名前に慣れるまではかなり時間がかかりそうだな。
俺は襲われていた馬車を助けた後、そのまま新しい街に辿り着いた。しかし、ここに大きな誤算があった。
それは想像以上に俺の足が速くなっていた、ということだ。
それのせいで俺の新たな名前を考える時間があまり取れなかったのだ。その結果冒険者ギルドに着いてもなお良い名前は思い浮かばなかった。
ギルドでは先に本日の用件を紙に書いて受付を行うのだが、あまり時間をかけることができないため、前の名前を適当にイジって提出したのだ。
そして今俺の順番が回ってきて名前を呼ばれた所だな。
にしても他人に呼ばれると違和感が凄まじいな。
『ぷぷっ、いいじゃねーか。小野だから斧でアックス。翔太郎の翔からフライ、ハイトは適当か? 即興にしては良いクオリティじゃねーか? 面白いけど、ククッ』
おい、笑うな! そして完全に図星を突くな! 心を読んでるから絶対に急所に刺さるだろうが!
「えー、本日は冒険者への登録でよろしかったですか?」
「はい」
「ではこちらの書類に必要事項をご記入下さい。また、ご存じのことかと思いますが、冒険者になる為には試験に合格していただく必要がございます。試験は筆記と実技とがあり、それぞれ一日ずつ計二日かけて行います」
ここら辺のことは知っている。俺も前世? で一度試験を受けたことがあるし、職員として何度もこの試験には携わってきた。
「はい。因みに今度の試験はいつからあるんですか?」
いつから、というのはとても大事だ。それまでにできる限りの準備をしないといけないからな。俺が以前受けた試験なんて何年も前だ。大幅に変更があふぃれたり、筆記試験の内容も結構忘れちゃっているかもしれない。
「えーっと、明日ですね」
「明日!?」
「あー、次回の試験に回しましょうか? それですと次回は一ヶ月後になりますが」
「だ、大丈夫です……」
ま、マジかよ。せめて一週間くらいはあると思ってたのに、これじゃあ準備もクソもないじゃないか。
「分かりました、では明日の午前八時にお待ちしておりますね」
「はぁ」
俺は肩を落としてギルドに来る前に取っておいた宿へと帰った。とにかく今日は走りっぱなしだったし疲れた。
『おいおい、どうするんだ? 実技はまだしも筆記はどうするんだ?』
「逆だろ、筆記はまだしも実技をどうするかだろ」
『……は?』
「……え?」
❇︎
「やめ。筆記試験は以上となります。本日はお疲れ様でした。明日は実技となりますのでしっかりと休憩を取り、英気をやしなってください」
「ふぅ、」
久々にやったが意外と覚えているもんだな。モンスターやギルドのシステム的なことに関しては日頃から扱っているし、他のこともある程度は覚えていた。コレなら筆記はいけただろう。
『お、おい。お前マジかよ。筆記、周りの解答見たけどお前、ほとんど合ってたんじゃないか?』
「筆記ができるのはいつものことだ。それに、冒険者に必要なのは筆記試験で点数を取ることじゃない、圧倒的な力、強さだ」
そして、前世の俺にはそれらが圧倒的に不足していた。明日からの実技試験、大丈夫だろうか……
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