第9話 憑依と名前


「ふぅ……た、助かったありがとう」


『おう、言ってことよ。お前が死んだら俺も死ぬからな〜、それにしてもこんなところで悪魔に出くわすとは思わなかったぜ』


「そうだ、悪魔って言ってたよな? 今の敵も悪魔が憑依した奴なのか?」


『いや、違うあれはただ単に悪魔が人間を操ってただけだ。憑依は自分の力を100%人間に使わせることができるが、ただの操作だと全然だ。まあ、その分人間が死んだだけじゃ死なないっていう利点はあるがな』


「なっ、じゃあまだその悪魔はまだ生きてるのか?」


『落ち着け、俺の力を使ったんだ。ちゃんと倒せている。それよりもお前、声が大きいぞ。側から見たら独り言がデカいただの痛い指名手配犯だぞ?』


 おいおい、最後のは余計だろ。まあ事実だからぐうのねも出ないのだが。


「あ、あのっ……!」


 そんなやりとりをしていると、馬車から一人の女性が降りてきた。非常に若くて綺麗な人だ。


「この度は助けで頂き、本当にありがとうございますっ! 貴方は私の命の恩人です、御礼をしたいので何なりとお申し付けください。命はお金に変えられませんから!」


 その女性が俺に向かって真っ直ぐな瞳でそう言った。うん、この言葉は本心なのだろう、俺のおかげで命が救われたのも事実かもしれない、だが俺は一瞬でも見捨てようとした身だ、そんな奴が御礼をもらって良いわけがない。


「人として当然のことをしたまでです。御礼なんて要りません、ではこれで」


『おいおい違うだろ。今は追われている身で、少しの情報も漏らしたくないから命は救いましたけど、何も教えません、だろ? ちゃんと本当のこと言えよ〜』


 うっさい、お前は黙ってろ!


「そ、そんな。今からお食事ですので晩御飯だけでも一緒にいかがです? きっと父上も喜ばれると思います!」


「申し訳ありません、私は先を急いでおりまして。では、コレで失礼いたします」


 そう言って俺は未練を断ち切るかのように全速力で走り出した。


「せっ、せめてお名前だけでもーー!!」


 後ろからそんな声が聞こえたが俺は構わず、足を動かし続けた。幸い、人外となった俺の脚力は常人のそれとは比べ物にならないほどのスピードを出してくれた。


 どのくらいの間走っただろうか。俺は、一息つくために走りから歩きへと移行した。


「それにしても名前、かー」


 当然、前の俺の名前は使うことはできない。だから偽名、いや新たな名前が必要となるのだが……ちゃんと忘れたりヘマが出ないようにしないとだよなー。冒険者になるまでには考えておかないとだな。


 俺は呼吸を整え、再び走り出した。ルシファーは多分寝ていた。



━━━━数時間後、


「クンクン、クンクン、ここに悪魔の匂いがするなぁ〜。僕達、聖統騎士団意外で悪魔を倒すことができるのは、同じ悪魔か、天使だけ。ふふっ、自分の匂いは上手く消したみたいだったけど残念だね〜、ルシファーちゃん」


「おい、足取りが掴めたならウダウダ言ってないでさっさと行くぞ」


「はーい。待っててね、ルシちゃん」

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