第6話 逃亡開始


 俺はギルドにやってきた騎士団を追い払い、そのまま長年勤めてきた職場を後にした。それにしても人間って殴るだけであんな簡単に倒れるんだな。


 ……いや、分かっている。俺が人外の力を身につけてしまったのだ。いよいよ普通の生活は送れなくなったようだ。覚悟を決めて、俺が死ぬまで全力で戦い続けなければならないようだ。


『おーやっとやる気になったか。それにしても、お前戦闘センス本当にないな。俺の堕天使の力が無かったら騎士団どころか新米冒険者にも勝てないぞ?』


「うるせー、そんなことは分かってる。だから職員をしていたんだろうが。それをお前が……」


『あ、そういえば冒険者ってどうやってなるんだ? 人間界のことに全く知らないから教えてくれ』


「冒険者になる為には、冒険者ギルドで実施される冒険者認定試験に合格する必要がある。そのテストは筆記と実技に分けられていて、その成績に応じて合否、更にはランクまで判定される」


『おーやっぱギルド職員なだけあって詳しいな』


「……うるせー。それよりもさっさと移動するぞ。ここは王都に隣接している街だ。せめて一つ以上は離れた街で試験を受けたい」


『そうだな。じゃあ頑張って移動するんだな。ちょっと俺は疲れたから寝る』


「は?」


 そう言って堕天使ルシファーは本当に眠ってしまった。全く、つくづく勝手だなコイツは。


 だが、寝てくれたおかげで俺の思考を読まれることもない。つまりは完全に自由でプライベートな時間というわけだ。コレから一生コイツと過ごさないといけないだろうから、この時間はこれから貴重になってくるだろうな。


「はぁ、」


 俺は一人森の中を歩いていた。軽く舗装されてはいるものの、少し外れれば直ぐに鬱蒼と生い茂る木々の中へと誘われる。


 ルシファーが眠り、夜明けと共に歩いていると突如俺に現実が押し寄せてきた。俺は人外の身と成り果て、追われる身になったのだと。その意味を理解してしまった。


 誰にも頼ることはできず、己が身一つで生き抜かねばならない。こんなことになるなんてどの瞬間の俺が想像できただろうか。はぁ、全く人生というのは想像がつかないものだな。もはや笑えてくるぞ。


 独りトボトボと森の中を歩いていると、遠くの方から馬車の音が聞こえてきた。こんな朝早くから何事だろう、と思ったが、それは俺も同じことか。むしろ、一人で歩いている分、不審度合いは俺の方が高いかもしれない。


 そんなことを考えていると、ふと馬車の音が止まった。そして、


「おい、止まれ!」


 止まった馬車に対して、何者かがそう叫んだ。気付かれないようにそちらに接近すると、盗賊らしき人たちが馬車を完全に包囲していた。こ、これは……


 関わらない方がいいかもしれない。俺ってほら、追われてる身だし。


 俺はそう判断し、そーっと森の方へと下がり身を隠そうとしたところ、


 パキッ


「おん? 誰かいるのか?」


 小枝を踏んでしまった。最悪だ。

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