第4話 堕ちた職員
「って、堕天使ルシファー!?」
おいおい、ちゃんとしっかり追われる立場じゃねーかよ。悪魔は文字通り悪で、その反対が天使だから、そこから堕ちたコイツはどう考えても悪じゃん。腐り切った世界がどーのこーのとか言ってたけど、結局は俺を利用して、逃げ果せようって魂胆なんだろうな。
『はぁ、そこまで言うか……でもまあそう思われても仕方ねーよな。じゃあここで問題だ。先ほどお前は天使と言ったが、その天使は当然宗教という形でこの国と密接に関わっている。そして、その国直属の騎士団はお前にどういう対応を取った? まさか忘れた訳じゃねーよな?』
「っ……!」
そうだ。そうだった。俺がこうなったもう一つの理由。それは騎士団達の理不尽な連行だ。目の前の堕天使もそうだが、アレさえなければ今の俺はこうなっていない、それは事実だ。でも、
「でも、」
『そして更に追加問題。お前を助けたのはどっちだ?』
くっ……俺は完全にこの堕天使、いや悪魔の掌の上だ。だが、言っていることは何も間違っていない。だったら、
『どうだ、決心は付いたか?』
「決心もクソも、絶対にこうなるようにお前が誘導したんだんだろ。それにお前の力を借りなければどうせ俺も死ぬ。なら少しくらい余生を楽しもうと思っただけだ」
『ふっ、いい心がけだ。人間は生まれた瞬間から死ぬまで余生だからな。よし、じゃあさっさと夜が明ける前に準備を終わらせて出発するぞ。まずは体からだな。もう今の体には戻れないから今のウチに沢山バイバイしとけよ』
はぁ、こんな奴に体奪われるのかよ。悪魔は魂を奪うっていうが、堕天使は体を奪うんだな。
「はぁ、バイバイ。俺」
俺がそう言うと突如として体全身が捩れるような感覚に陥った。と言うか、まるで俺自身がパズルになったかのようだ。一度バラバラにして再び組み直されていくような、そんな感じ。それがどれくらい続いただろうか。気づけば俺は、
「こ、これが俺……?」
鏡の前に立つとそこには美少女と見紛うほどの美少年が立っていた。な、なんで俺がこんなに綺麗になってるんだ!?
『あぁ、俺ってば生まれが天使だろ? だから顔の造形が元から綺麗なんだわ。それを憑依させたんだから多少は美しくなるのは当たり前だろ。人間基準じゃ尚更だ。』
そ、そういうものなのだろうか。確かに、コイツが店に入ってきた時は物凄く綺麗だったが。それにしてもコレが俺とは違和感が果てしないな……
『それに、もう過去のお前はいないんだ。顔の一つや二つ入れ替わってくらいがちょうどいいだろ』
「それはそうだが……」
はぁ、溜息が止まらない。俺の平穏な日常は一体どこに行ってしまったんだよ。この悪魔、いや堕天使のせいで俺の積み上げてきたものが一日にして崩れ去ったじゃねーか。
「なあ。また俺が何事もない日常生活を送れるようになる可能性ってどのくらいあるんだ?」
『んー、さっきも言ったけどお前次第だろ。お前が強くなって追ってくる奴全員倒して、倒して、全滅させたらそりゃ大好きな平和が訪れるんじゃねーのか?』
おいおい、そんなものは平和とは呼べんだろ。普通に地獄じゃねーか。でもまあ、それしか方法が無いのならばそうする他ないだろう。
バンッ
店の扉が開かれた。そこから眩しい朝日と数人の騎士団が入ってきた。堕天使の言った通り、恐らく俺を連行する全ての手筈を整えてきたのだろうな。俺も覚悟を決めねばならない。
『ん、もう朝か。思いの外時間が経ってたみたいだな。ちょうどいい、手始めにアイツらを倒そうぜ。アイツらに捕まったら最後、お前の望むものは手に入らない。手に入れたいものがあるなら、自分で戦うしかないよな? 安心しろ、今のお前は俺が取り憑いてるから十分人間離れしてる、殴れば倒せるだろうよ』
……コイツはやっぱり悪魔の方がお似合いだ。
でもまあ、俺から平穏を奪おうとする輩には俺も全力で対抗できる気がする。
「はぁ、俺昨日までただのギルド職員だったのになぁ」
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