第3話 深まる疑念


「ふぅ……死ぬかと思ったー」

『ふぅ……死ぬかと思ったー』


 って、おい! なんでお前も同じ反応してるんだ。お前は別に死なねーだろ!


『いや、実は俺も死ぬとこだったぞ?』


「へ? マジで?」


 ってかしれっと心読むのやめい。


『あぁ。だってアイツら俺を狙ってここまで来たんだから』


 やはりお前のせいだったのか。


「それで今お前はどこにいるんだ? それに時を戻せるってことは少なくともただの人間じゃないのだろう? お前は何者なんだ? それにこうなってしまったのは騎士団も悪いが、お前も悪い。どうやって落とし前をつけてくれるんだ?」


『おいおい一旦落ち着け。お前の疑問も心が痛い程分かるが、俺たちは今ティーパーティをできるほどの余裕はない』


 余裕はない、だとー? あれもこれもどれも全部お前のせいなんだぞ? しかも別に誰もお前とお茶会なんてしようなんて思ってないし。


『アイツらはまた明日の朝、必ずここにやってくる。しかも今度はさっきみたいな言い訳が通じない。確実にお前を連行するつもだ』


「え、なんで?」


『だから言っただろ? 奴らは俺を狙っているって。そして何らかの手段を使って俺の位置を特定する。まあ、と言うかさっきもほぼ分かっていただろうけどな。だが確信があった訳じゃないし、今この場でお前を連行するわけにもいかないだろうから、お前が寝ている間に全ての手続きを終えて、ここの職員一人が消えても大丈夫なように手配するんだろうな』


「ん、ってことは……」


『あぁ、100%確実に連行されるぞ。冤罪なのか事情聴取なのか、まあやり方は色々あるだろうな』


「おいおいじゃあ俺ははどうすればいいっていうんだよ。全部お前のせいなんだろ? なんで俺がそんな目に遭わなきゃいけないんだよ」


『お前に与えられた選択肢は二つ。今日安らかに眠って明日死ぬか、今すぐここを飛び出して全力で抗った後に死ぬかの二択だ』


 それはもう二つじゃなくて一つって言えよ……それにどちらにせよ死んでるじゃん。


『人間はどうせ死ぬ生き物だろう?』


「まあそうだけど……ってさっきから」


『そ、れ、に、別に悪いことばかりじゃない。お前は全てから解放されて晴れて自由の身となれるんだ。どうだ、最高だろ? 何をしても自由なんだ、アイツらに捕まらなければな』


「いやいや、それが一番難しいんだろうが。どうやって騎士団、しかも王様直属の騎士団から逃げるって言うんだよ」


『冒険者になれ』


「は?」


『冒険者になるんだ。そうしたら住まいを転々としてても何もおかしくないし、騎士団に対抗できる力も身につけられる。どうだ、中々に素晴らしい案だろう?』


「おいおい何を言ってるんだ? そんな簡単に言ったって、冒険者になんかなれる訳なだろ。冒険者になるにはテストを受けなきゃいけない。それに俺はもう二十八だ。今から冒険者を目指すなんてあまりにも遅すぎるだろ」


 普通冒険者になる奴らは大体幼き頃から夢見て、十代にはその道を歩んでいる。遅くても二十代前半には冒険者になってなきゃアウトだ。これは冒険者の適正や体力など、あらゆる面からそう結論づけられていることで、


 例外は今の今まで一つもない。


『おーヤケに詳しいじゃねーか。さてはお前も冒険者を目指してたクチだな?』


「うるさい、俺は冒険者に憧れてなんかないし、なるつもりもない。俺はただ毎日を平穏に過ごせればそれでいいんだ」


『ふーん、でも平穏を守る為にも強さはいるんじゃねーのか? お前がもし騎士団に対抗できる術があるのならば、怯えて暮らす必要もないだろう? 結局の所、昔も今もお前に必要なのは強さってわけだ』


「うるさい! そんな力があればとっくに冒険者になってる! そうじゃないからこうやって日々の細やかな幸せを謳歌しているんだろうが。そもそも全ての元凶はお前だろう?」


『まあまあ、そう熱くなるなって。俺だって申し訳ないと言う気持ちがない訳じゃない。だから協力してやるよ、お前が冒険者になる為に。そうすれば俺もその平穏な日々を送れそうだしな』


「協力……?」


『そうだ。その具体的な方法は、実にシンプル。俺をお前に憑依させるんだ。そうすれば強くて若々しい、冒険者としても十分やっていける体を手に入れることができる。つまり、三十代手前で完全に諦めていた冒険者に再挑戦できるってわけだ。あ、因みに別に憑依してもストックが増えるわけじゃ無いからな。お前が死んだら終わりだから気をつけろよ?」


「憑依? 再挑戦? ……俺が冒険者に?」


 さっきから現実感のないことばかり言いやがって。でも、コイツには時を戻す力があるのは事実だ。その力で俺を助けてくれたことも。コイツの言っていることはもしかして、、、


「ん、ちょっと待て。お前の話については一旦理解した。だが、憑依するにせよしないにせよ、俺はお前にこれからの人生を握られているのだろう? ならばせめてこれだけは教えてくれ、お前は一体何者なんだ?」


『俺? 俺の名前はルシファー、堕天使ルシファーだ。この腐り切った世界を変える為、上から落ちてきた』


「は??」


『あと一つ俺からのアドバイスだ。お前の人生の手綱を握っているのは俺じゃない、お前自身だ。冒険者になるもならないも、生きるも死ぬも全てお前次第だ。それを踏まえた上でお前の答えを教えてくれ」

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