透明人間のC君
うちのクラスであるO中学校1-B組、一番窓側の一番後ろの席には、透明人間のC君が座っている。
実は、C君の顔は誰も見たことが無い。先生も見たことが無いって言ってるから僕達が知ってるわけがない。それでも、クラスの皆は僕を含めて全員がC君は存在してると知っている。きっかけは、定期テストの時だった。
「そこまで! 全員筆記用具から手を放して!」
授業の終わりのチャイムと同時に先生が大声がクラスに響く。それと同時にクラスメートから悲鳴にも歓喜の声が湧き上がる。
「問3の問題難しすぎない?」「お前そこCにしたの? マジかよ俺B選んだんだけど……」
「ほら! 回収するまで私語は慎む! テストが終わってはしゃぐ気持ちは先生もわかるけども!」
そう、僕たちは最後のテストを終え、一週間後には夏休みが始まるフィーバータイムなのだ。叱った先生の口元も少し緩んでいる。最近結婚したらしいから、家族水入らずで過ごすのが楽しみなのだろう。そんな浮かれた僕らは、いつものように後ろから答案を回し、最前列の生徒へ受け渡し、教卓へと運んでいく。
「よし、答案の枚数あってるか数えるから、ちょっと待ってろ。終わったらそのままHR始めるから帰りの支度しなさい」
言いながらも先生は既に作業に取り掛かっていた。僕らは再び雑談に戻り、活気を一瞬にして取り戻した。
「あれ……どうしてだ……」
しかし、先生の作業は一向に終わらず、何度も一番上から答案を数え直しては、何かをぶつぶつと言っている。
「
一向に作業の終わらない先生に、クラスメートはしびれを切らした。
「実はな……Cの名前が書かれた回答用紙があるんだよ」
そういって先生は、回収された答案の中から一枚を取り出して黒板に貼った。男子の何人かが黒板の近くに寄り――
「ホントじゃん」「Cのフルネームって初めて知った」「怖すぎるだろ!」
それを受けてクラス全体でも何が起きたのかの推測を話し始める。だが、皆の視線は一様に入学当初から何も変わらない空席を見ていた。
「先生も最初はな、誰かが悪戯で名前を入れ替えて書いた奴がいると思ったんだよ」
「あれだけ確認したじゃないですか」
「そうなんだよなぁ……今日欠席してるのはCだけなんだが、C以外全員の回答もちゃんとある。しかも一番怖いのが……」
そういって、先生は口を閉ざす。何かを隠している事は明らかだったが、言う事を躊躇っているのが伝わってくる。
「大丈夫! 俺達口は堅いから絶対漏らさないからさ!」
一番に黒板の前にいった男子が、クラス全体に同意を求め、自分も含めて全員が即座に首を縦に振った。
「わかったよお前ら、絶対に言うなよ。――多分このテスト、満点だ」
その言葉に誰もが驚愕していた。このテストの作成者は目の前にいる先生で、満点は絶対に出さないと授業中から常に豪語し、今までも満点を出したことが無いことを誇らしげに語っていた。しかも、C君は一度も授業に出たことが無いのに授業でほんの少ししか言及してない問題文まで正解したというのか?
「ようするに『問題文が事前に盗まれた可能性がある』ってことだ。そうしなきゃ満点は絶対に撮れん。特に授業に出てないCには特に無理だ。そして、これが明るみになったら、うちのクラスどころか学年全体で夏休みは返上覚悟で補修授業をやるかもしれない」
「な、なんでそんなことになるんですか!?」
「俺が今まで満点の生徒を出したことが無かったからだよ! 他の先生もそのことを知ってるし、ましてや今日出席してない生徒がそれを取るなんて、カンニング以外ないからなんだよ!」
クラスの皆は部活動、祖父母の家への帰省、花火大会、夏祭り。それぞれが休みの間にやりたいことを思い描いていただろう。それらが全てなくなるかもしれない。ドンドンと顔色が青くなっていった。
「ひとまず、この件はバレるまで絶対に秘密だ。いいな」
全員が首が取れるほど縦に振った。
それ以来、Cにまつわるものがクラスの中から相次いで発見されるようになった。Cの名前が刺繍された体育着や上履き等、上げればキリが無かった。皆がCという存在を気味悪がりだしたが、風向きが変わったのは、クラスメートの一人の証言だった。
「おれ、Cに殴られました」
彼は、そういってパンパンに腫れた顔で学校に登校してきたのだ。元々彼は喧嘩早く、普段から生傷が絶えなかったが、ここまでヒドイ事はなかった。
だがそれ以来、何かあると全てCの所為にすればよい、そんな空気が流れた。あの子の秘密を暴露したのはCが隠れて聞いていたから、先生に過激な悪戯をしたCを見た、Cに犯罪をやれと脅された。Cが指示したCが教えてCに言われたCにCにCに――
結局クラスは学級崩壊した。互いにまともな関係を築くことができなくなったからだ。だが、1-B組の生徒は、学級崩壊の理由を口を揃えて一人の名前を上げる。
――Cがやった、と。
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