これはこれで面倒くさい

――まもなくプログラムを更新致します。


「――誰かなんか言った?」

 カフェでお茶していた時、Pが突然そんなことを言った。

「特に何も言ってないと思うけど…… だよねみんな?」

 その言葉にみなが頷く。勿論Sにも何も言ってるようには聞こえていなかった。


「まぁいいじゃんか、それより何頼む?」

「うーん…… 俺はBと半分こしたいな」

「もぉ~ 仕方ないなぁ~」

 P自体もそんなに気にしていなかったようで、すぐにBに意識が向く。

「――しかし貴方たちも、よくもそこまで人前でいちゃいちゃ出来るね……」

 見ているこっちが胸やけするくらいには、PとBは仲良く手に腰を当て合っている。ここ最近、急激に距離を詰めた二人の距離は常に密着していると言っても過言ではなかった。

「まぁだって――」

「私達ってば――」

「「互いの魅力に気づいちゃったんですから!!」」

 まるで台本でもあるかのように、息ぴったしに同じ言葉を言って、それ以上の追及をする気は一気に削がれてしまう。


「ところでさ、PとBは、どうして急に付き合い始めたの?」

「そうそう、俺もそこは気になってたし、なんなら少し前まで二人とも仲が悪かったでしょ」

 

 仲が悪かった、そんな言葉で済ませられないほど、PとBは互いを嫌っていた。

 同期として同じタイミングで加入したが、Pは今を楽しむことが最優先で行き当たりばったり、Bは一分先だろうと常に計画をカチッと決めなければ気が済まない頑固者、そういった風に二人の性格は正反対だった。だから同じ組に配置されれば互いの意見がぶつかり合う事が日常茶飯事で、できるだけ二人を組ませないようにすることにみんなで気を使っていたのだ。


「まぁ色々あったんだけど……」

「SがBとの仲を取り持ってくれたのよ!」

 二人の言葉に視線は一気にSへと移った。全員が瞳にありがとうと書いてあるのがよく分かる。自分でも感謝してほしいとSは思っているからだ。

 

 正直に言ってSはこの二人は根本的な部分では相性が良いのでは、そう考えていた。今を楽しみすぎるPと、少しを考えすぎなB、それぞれが互いに組み合う事が出来れば、いい関係を築くことができるのではないか。そしてサークルの発起人として、流石にメンバー同士の仲があまりにも悪すぎる事など鑑みて、お節介とは知りつつも、取り持つことを決めたのだ。


 方法は簡単、お酒の力をちょちょいと借りて、互いに互いの意識を変えさせる、言葉にするとこれだけだ。しかし実際には一週間近くかかって、最終的な結論として互いにの仲を改善させることができた。その時の感動は、多分生涯忘れることは無いだろう。ただ一つ誤算があるとすれば、互いが仲がいい友人位になってくれればと思っていたが、Sの知らぬ間に関係を発展させ、いつの間にか恋人同士までになっていることだった。


 

「もぉ、Bってばくっつき過ぎだよ!」

「ごめんね、Pから手を離すとすぐにどっか行っちゃう気がしちゃってさ」

「だからってそんなに首に手を回さなくてもいいでしょ~」

 そのまま本日のサークル活動が開始しても、二人のイチャ付きは、留まること知らなかった。

 そしてメンバー全員が気が付いたことがある。互いのことを認識した時点で険悪なムードになることは、相当に面倒な事だと思っていたが、互いの存在しか見えていないような残念なカップルも同様に、面倒くさい物だという事に。


「ちょっとSさん…… あれはあれで注意してくださいよ……」

「――だよねぇ…… あぁ……やりたくない」

 本日もまた、話し合いの必要がありそうだ。


「「「「乾杯!」」」

 ビールの缶を三人でぶつけ、そのまま喉へと流し込む。みな飲むペースが速く、あっと言う間に一息で飲み干してしまう。

「しかしいいんですか!? Pと自分だけ誘って貰っちゃって」

「だいじょぶだいじょぶ、君たちはまだ奢ってなかったからね」

「ありがとうSさ~ん!」

 

 あの後、他のメンバーに断りを入れて、Sは自宅ででBとPを酒飲みパーティーへと招待した。勿論要件は一つしかない。

 

「《起動》」

 Sがそう呟くと、二人は持っていた缶を床へと落とす。酒が零れるも、それを咎める者は誰も居ない。

 

「対象名称B並びにP、メンテナンスモードに移行」

「「――了解シマシタ、御主人マスター」」


「さてと…… 今度はどう弄れば……」

 Sは一人、缶を傾けながら、今度は二人をどのように変化させるか考え込む。


「ったく、テニスサークルなんだから、頭空っぽにしてやることヤればいいのに」

 コート上で常にいがみ合ってる二人も、多少でも改善すれば改造なんて面倒なことはしない。けれど、二人は変わらなかった。だからSが、強制的に仲良くさせることにしたのだ。

 しかし結果は、余りの変化にSを含め、周囲の誰も付いていくことは出来なかった。

 


「ったく、これはこれで面倒くせぇなぁ……」

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