”カエル”ペットショップ

「なんでお前って売れないんだろうか」

「私が一番困ってるわよ。こんなオンボロな店にいつまでもいたんじゃ、餌が途切れる日がすぐ来るんじゃないかと考えただけで涙が――」

「蛙に涙腺は存在しねぇだろうがよ」

「あら、店長って博識なのね」

「カエルペットショップの店長の肩書を舐めすぎだろ」

「それもそうね」



「そういえば、私に名前を付けてくれないの? ゲロ太とか、ゲロ子とか」

「馬鹿言え、商品に名前なんて付けたら愛着湧いて手放せなく…… いや、それ無ぇか」

「ちょっと! そんな後ろ向きな名付けとか、こちらから願い下げなんですけれど!?」

「ならいいや、お前は”カエル”で、それ以上でもそれ以下でもない」

「まぁ、下手に”変える”ことがあったら、それはそれで混乱するだけだしょうね」



「お! お客さんだ! いらっしゃいませー!」

(本当だわ…… これで5日振りのお客かしら。私も精一杯アピールしなきゃ)

 

  ピョーン ピョーーーン ピョョョン

 

「あら、この蛙、なかなか活きが良いわね! 買おうかしら!」

 ピョーン ピョーーーン ピョョョン

「お客様はお目が高くていらっしゃる! こちら我が店舗の最古参の商品でして!」

「あら、なら寿命が近いってことじゃないの、必要ないわね」

「「え」」

「え、も何も、私が必要としてるのは新鮮な蛙よ。できるだけ若い蛙を煮たエキスが必要なのだから、私には要らないわ」

「そ、そうでしたか…… では他にもご紹介させていただきます」

(店長! そのクソ客を”帰る”ように仕向けなさいよ! 私はまだピチピチなんだから! 節穴すぎるでしょう!)



「よぉ、カエル。調子はどうだ――って、卵になってやがる」

「確か、孵化させるには温かいモノで覆ってやるんだっけな……」

「しかし、殻が固ぇ。魚卵じゃなくて、鶏卵に近いってのが、こいつのやばいところだよな」

「さしずめ、”孵る”ってか?」

「面白くないわよ」

「うお! 卵が喋った!」


 


「おーい店長、いるか?」

「おぉ、モグラ。久しぶりだな、元気にしてたか?」

「いやぁそれがさ、泥棒ミミズ野郎が来て、土を掘って穴を作りまくったせいで、微生物とか栄養とかが、全部壊れちまってさ!」

「またそれ!? もういい加減しっかりと対策しろよ!」

「頼むよ! もう店長しか頼める人いないからさ……」

「カエル~ やってくんない?」

「あんたカエルに何求めてんだい!?」

「まぁまぁ落ち着け。土地をちょっとばかし”還る”ように出助けして欲しいだけだからさ」

「――したらいいわよ」

「何?」

「最高級のコオロギとか、トンボ! 用意したらいいわよ!」

「よし! 交渉成立!」

「君たち、毎回そのやりとり飽きないのかい」

「「飽きてるけど便利なんだよ!」」

「おぉ、回答は息ぴったし」




「お~い店長、こっち来ておくれ」

「なんだなんだ、俺は忙しいんだが」

「クロスワードパズルを一生懸命解いてるのが水の反射で見えてるからね」

「良い目してんな、羨ましいぜ。で、用事は一体何だよ」

「いやね、そろそろ”換える”事してくれてもいいんじゃないかい?」

「どれどれ…… 確かにちょっと腐ってきたかもしんないな」

「あんたも良い目してんじゃないか。そうだよそこの――」

「やっぱこのカエル、背中部分とかチョッと腐ってきてるよな!」

「おだまり! あんたがいつまでも売り残すからだよ! じゃなくて水草見ろ!」

「うぉ、まじじゃん。ちょいまってろ、在庫から引っ張りだしてくる!」

「――やっぱり、生育に関しては良い奴よね店長って」



 

「おーいカエル、飯だ」

「GERO GERO」

「おい、いきなり普通っぽくなってどうしたんだよ」

「GERO」

「おい! 会話しろよ!」

「GERO……」

「いや、ちょっと余韻残してるじゃねえか! 分かってんだろ!」

「……残念、のど袋の使い方完璧だと思ったんですけどね……」

「バ~カ、カエルであるお前とドレだけ長いこと一緒にいると思ってんだよ」




 

「かれこれ出会って20年くらいになるっけ」

「え、もうそんな?」

「それくらいになったわよ」

「そっか…… 時間が過ぎるのは早いな」

「しんみりすんのは、まず私に飯を出してからでしょ!」

「――痛ぇ! おい手前!」

「知らないわよ! 私はこれから売られるために美貌を整えるんだから、そのためにはご飯が必須なのよ」

「そんなよぼよぼの皮膚の手入れして、そもそも今更売れるかよ!」

「うるさいわね! 今に見てなさい、金持ちに買われて、あんたを札束で頬をペチンと叩いてやるのが今の夢なんだから!」

「ゴミみたいな理想と夢を今すぐ捨ててろ!」

「蛙にはちょっと難しいかしらね」

「都合のいい時だけカエルになってんじゃねえよ」


「まぁ、もし売れ残ったら、一生世話してやるから安心しろ」

「そうね…… もし、万が一、いや億が一そうなったら、お願いしようかしら」

「素直に認めるなんて、こりゃ明日はカエルが降るぞ~」

「折角真面目に答えたのに損したじゃないの!」



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