爆発物。
『危険! この先、爆発物あり』
道の真ん中に突如として現れた立て看板には、そんな文章が書かれている。
「なんだこの悪戯は!」
この町で一番長く住んでいるOは怒りを隠さなかった。自分の目が黒いうちにこんなことが起きるなんて、恥ずかしいと、そう考えていたからだ。しかし、爆発物とあっては下手に手を出すことはできない。警察にどういうべきか、それとも…… そう悩んでいると、ふと、この悪戯の目星がついた。
犯人は恐らく、近所にすむ悪ガキのBだろうと。Bは義務教育すら終わってない子供だが、悪戯が大好きで毎日のように周囲の人間に仕掛けている。最初は可愛いものだったが、最近は怪我の危険があるもの仕掛けてくるようになった。特に昨日の落とし穴は、深さは大人の身長の二倍の深さはあった。そして看板は、丁寧にもBの家の前に置いてある。Oはすぅーと息を吸い、大声で呼びかける。
「こぉぉらああ! B! 出てこい!」
「……は~い」
空気がビリビリと震える様な声につられ、Bが眠そうな目を擦りがら、玄関の扉を開けて出てきた。
「こら! B! さっさと爆弾をどうにかしろ!」
「――バクダン? なんのこと?」
その言葉にOは驚いた。Bは基本的には悪戯が大好きだが、逆らない相手もいる。それはBの両親とOだ。Bの悪戯の被害を危険に思った三人は、彼を徹底的に教育した。その結果、Bは彼らには嘘をつかない。だからこそ彼が犯人ではないことに驚いた。
「じゃあ、これは一体誰が仕掛けたんだ……」
「休みの日に起こして、一体なに?」
「実はな、お前の家の前に立て看板があって、この先に爆弾があるって――」
「マジで――って本当じゃん!」
Oの目の前にいたはずのBはあっという間に、看板の方へと駆け出していって、文字を確かめたようだ。Bは興奮して、看板の周りを走り回っている。
「B! 落ち着け!」
Bのでは無いということは、別人の悪ふざけだろうが、万が一ということも考えられる。それなのに、走り回る危険な行動を野放しにできない。Oも慌てて走り出し、Bの首を掴んだ。
「少しは大人しくせんか!」
「やーだー!」
バタバタと暴れるBを押さえようと格闘していたとき、Oは気が付いたた。そして、同時にこの看板が悪戯であるということを確信した。
「おい、Bはそのまま家に帰りな」
「やったー! お休み~!」
きっといつもならば、二度寝はするなと叱っていただろうが、Oは気分が良かった。軽やかな足取りで、看板が示す爆弾地点へと進む。
看板には”両面”に警告文が書かれていた。
その事実がこれがただの愉快犯であることを裏付けていた。仮に看板の先に爆弾を仕込んでいるならば、片側に書くだけで良い筈だ。なのに、両面に書かれているという事は
『危険! この先、爆発物あり』
予測通り、警告文が書かれていた。Oが通ってきた道は人はあまり通らないが、警告文が書かれた看板の奥側に同じ文書を書く必要はない。Oが歩いてきた方向と反対側だけに書くならば、まだ手間を惜しんだと納得することもできたからだ。そして、Oが今まで歩いた道に、それらしい危険物は存在しなかった。なら、これはもう悪戯と判断していい。
「ならばあとは撤去するだけじゃ――っと」
大した重さもなく、立て看板を持ち上げ、小脇に抱える。
「――ん?」
そのとき、抱えていた看板の裏面、まだ反対側に面していた警告文が少し違うように見えた。もしかしたら、犯人が判るかもしれない。そんな思いから、向きを変えて、文章を読む。
Bはその時を、家の二階から目を凝らしてじっと待っていた。
「ぼくはバクダンは仕掛けてないんだよな」
これはBが考えた悪戯で、Oを怒らせるために仕掛けた罠だ。最近Oは年なのか、あまりぼくに怒ってくれなくなった。別に説教が好きというわけではないが、しっかりと向き合ってくれる目が、Bは大好きだった。それをもう一度でいいから引き出してみたい。そう考えて、今回看板を設置したのだ。
「きた!」
最初は看板を脇に抱えて、失敗かと思ったが、無事に反対側も読んでくれたみたいだ。Oは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたと思えば、すぐに顔が真っ赤になって怒っていた。
きた、爆発する。
ぼくは家から飛び出し、逃げ出した。
「こぉぉらあああ!! Bぃぃぃぃ!!」
看板の裏にはこう書かれていた。
「ドッキリ大成功! 爆発物は、Oさんの説教でした! Bより。」
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