第13話 お化け屋敷で思い出作り!?

 僕とまひろとクラスメイトは図工室の掃除を終えた。七瀬先生も一緒に掃除を手伝ってくれた。

 窓際から晴れ渡る空を見上げる七瀬先生の横顔は素敵だった。

 きっと誰かのことを想っていたんだろう。

 そして、木の葉小学校で噂になっている動く絵画はどこにも見当たらなかった。

 まひろが七瀬先生に噂の絵画のことを尋ねていたけど、七瀬先生はそんな噂の絵画は見たこともないし、聞いたこともないと言っていた。

 掃除を終えた僕たちの班は教室へと戻る。

 僕は自分の席に座って、図工室で見た日向夏奈の肖像画のことを思い出していた。

 あれは、夏奈だ。おばけの友達の裏飯夏奈だ。

 でも、肖像画の夏奈と、今の夏奈とは髪型も、肌の色も、目の色も違っていた。

 でもでも、あの真っ白な八重歯と愛らしい笑顔は夏奈にそっくりだった。

 でもでもでも、名前が違う。七瀬先生は日向夏奈って言ってた。

 日向夏奈と裏飯夏奈……いったいどういうことなんだろう……。

 七瀬先生にもっと詳しい話しを聞けばよかったと今更ながら後悔をしている。

 夏奈は自分で死んじゃったと言ってた。夏奈は生きている時に死んじゃって、おばけになって、生前の記憶と死んだ後の記憶がごちゃまぜになってしまったんだろうか……?

 う〜ん……不思議な謎は深まるばかりだ……。

 放課後、夏奈に会いに行ってみよう。夏奈は僕のお気に入りの校長先生の椅子に、今日もきっと座っているはずだ。


 六時間目の授業を終えて、帰る準備をしている時だった。


「つばさくん、一緒に帰ろ?」


 春風さんの声が聞こえて振り返ると、春風さん、こくい、まひろの三人がランドセルを背負って僕のことを待っているようだった。


「僕はその……」

「つばさ、どした? 早く行こうぜ」

「う、うん」


 僕はこくいに促されて歩きだす。

 今日の放課後は夏奈に会いに行こうと思ってたんだけど……明日のお昼休みに会いに行こうかな……。


「帰りに駄菓子屋寄って帰ろうぜ〜!」

「こくい〜寄り道はいけないんだよ?」

「いいじゃん別によ〜、なぁつばさ?」

「へっ? あぁ、そうだね……」

「つばさくん? どうしたの?」

「なんだか心ここにあらずって感じだねぇ?」

「そ、そうかな〜? 駄菓子屋さんに寄って帰ろう」

「おうよ、つばさ! そうこなくっちゃ!」


 僕たち四人は学校の帰り道の途中、よく利用する駄菓子屋さんへ寄り道をした。 

 色々な駄菓子が所狭しと陳列されていて、駄菓子屋さんへ来る度に全種類のお菓子を食べてみたいと思った。大人になったら必ず全種類の駄菓子を買って食べ比べしようと思う。

 そういえば、夏奈は駄菓子って好きなのかな? 夏奈とも一緒に駄菓子屋さんに来てみたいな。


「どの駄菓子を買おうか迷っちゃうねぇ」

「まひろ、これ美味しそうじゃない? 私、これにしようかな」

「美味しそうだねぇ、あたしもるるると同じ駄菓子にしようかな」

「つばさは決まった?」

「ううん、まだ決まってないよ」

「つばさ、これ前に食ったことあるんだけど美味かったぜ?」

「そうなんだ? それじゃあ、これにしようかな」


 僕は握りしめていたお小遣いの五十円玉を使い果たし、こくいのオススメしてくれた駄菓子を購入した。

 僕たちは駄菓子屋の前に置いてある、色褪せたベンチに四人そろって、少し狭かったけど横並びで座った。

 そこで各々で購入した駄菓子をさっそく頬張りはじめる。


「そういえば夏休みへ入る前に六年生が、学校の教室を使ってお化け屋敷を開催するみたいだよ」

「あたしも聞いたよそれ! 暑い夏を涼しく過ごして、楽しい思い出を作ろうってテーマらしいねぇ?」

「へぇ、中々おもしろそうじゃん」

「ねぇ、みんなで一緒に行かない?」

「えぇ、お化け屋敷でしょ? 私、怖いのはちょっと……」

「大丈夫大丈夫〜、六年生が作るお化け屋敷だよ? クラスのみんなも居るだろうし、そんなに怖くないと思うけどねぇ?」

「るるる、行ってみようぜ! どうせ大したことねぇよ」

「う〜ん……。つばさくんは、お化け屋敷へ行くの?」


 春風さんが不安そうな顔で僕の様子を伺っていた。


「六年生が作ったお化け屋敷なら僕でも入れそうかなぁ……」

「心配ねぇって、四人で行けば怖くもなんともねぇよ」


 こくいは余裕の表情で、ニカッと白い歯を見せながら笑っていた。


「るるる、一緒に行こうよ? 四人で行けば怖さより楽しさの方が上回ると思うからねぇ」

「怖くないなら行ってみようかなぁ?」

「みんなで一緒に行くんだからねぇ、怖くない怖くない!」

「よーし、決まりだな! 夏休みの前に楽しみが一つ増えたぜ」


 一週間後、僕たちは木の葉小学校で六年生が開催するお化け屋敷へ行くこととなった。


 ◆


 翌日、学校のお昼休みの時間に、僕はお気に入り場所へと向かった。

 学校の敷地内をしばらく歩いていると封鎖された焼却炉が見えてくる。

 その近くで夏奈が校長先生の椅子に座って、クルクルと椅子を回転させている姿が見えた。


「夏奈、久しぶり。元気だった?」

「やっほ〜! 私は元気だよ! つばさ最近ここへ来ないから、どうしちゃったのかな? って心配してたんだよっ?」

「ごめん、中々来れなくて」

「ふふっ」


 夏奈は相変わらず元気だった。

 どうしてかはわからないけど、夏奈の姿を見ていると僕まで元気な気持ちになってくる。

 夏奈の笑顔はとっても素敵で、星のようにキラキラと輝いている様に見えてついつい見惚れてしまう。

 一瞬、僕は頭の中で日向夏奈の笑顔を自然と思い出した。

 図工室で見た日向夏奈の肖像画のことを、夏奈に直接話してもいいんだろうか?

 夏奈は七瀬先生のことを知っているんだろうか?

 僕は思案していた。


「ねぇ? どうしたの?」


 夏奈が僕の顔を覗き込んでいた。


「ぁぃゃ、なんでもないよ」

「変なのっ♪」

「今度の土曜日、木の葉小学校の教室がお化け屋敷になるんだよ」

「ふぇっ!? なになにっ!? どういうことっ!?」


 夏奈が校長先生の椅子から勢いよく立ち上がり、キラキラと輝く目をより一層輝かせていた。


「ねぇねぇ! どうして教室がお化け屋敷になっちゃうの!」

「んっとねぇ、夏の暑い日を涼しく過ごせるようにって、六年生がお化け屋敷を開催してくれるんだって。それに六年生は小学校最後の学年だからね、思い出作りの一環もあると思うけど」

「行く行く行く行く〜! ぜぇ〜ったい私も行く! ってか、参加しちゃうんだからっ!」


 テンションが最高潮に達した夏奈が僕のすぐ目の前まで来ていた。


「うわ! 近っ! びっくりしたぁ……」

「ふぇっ? おどろかしなんかしてないよ?」

「あっ、いや、それはそうなんだけど……」

「ふふっ♪ 変なの♪ ねぇねぇ、お化け屋敷には何人くらいの人たちが参加するの?」

「他の学年の子たちの事は分からないけど、五年生や先生たちはみんな参加するから、百人以上は参加するんじゃないかな〜?」

「百人っ⁉︎」

「う〜ん……正確な人数はわからないけどね」


 夏奈は俯きながらぷるぷると小刻みに震えていた。

 夏奈、どうしたんだろう? 大丈夫かな?


「つばさ……どうしよう……」

「どうしたの……夏奈……?」

「私、この服で行っても大丈夫かな?」

「えぇっ!?」

「せっかくのお化け屋敷なのに……もっとオシャレな服を着て行きたいよ!」

「い、いつもの服で良いと思うけど……」

「ほんとに〜?」

「ほんとだよ! だって夏奈はさ、今のままで物凄く可愛いからさ、オシャレな洋服を着ても夏奈が可愛いすぎて、どんな洋服もくすんで見えちゃうよ!」

「ふぇっ!?」

「あっ、いや、その、あの……お……お化け屋敷楽しみだなー! あは、あははは、はははは」

「ほんとだね♪ ワクワク♪ ドキドキ♪」

「夏奈、凄く楽しそうだね?」

「うんうんっ♪ すっごく楽しみっ♪」


 夏奈は何か楽しい想像している様で、至福の表情を浮かべていた。


「百人もの人たちを、おどろかしができちゃうなんて、最高じゃんっ!」

「おどろかしをするの?」

「もちろんだよっ!」

「子どもが作るお化け屋敷だよ?」

「ふふっ、私が本当のおばけを見せてあげるっ」

「いや、そんな、本気でおどろかしをしなくても大丈夫だよ、あくまでも思い出作りの一環としての開催だしね……?」

「毎日暑くて大変でしょ? 涼しくなれるならいいじゃん〜?」

「う〜ん……それじゃあ、すごく優しく、ソフトな感じでやってもらえないかなぁ……怖いのが苦手な人もいる訳だし……」

「優しくソフトな感じでおどろかしをすればいいんだね?」

「う、うん」

「大丈夫っ、任せて!」


 夏奈はその場で小躍りしながら、嬉しそうに満面の笑みを見せていた。

 友達の、夏奈の喜んでいる姿を見ていると、僕の方まで嬉しくなってくる。

 本当は、夏奈がおどろかしをするんじゃなくて、僕は夏奈と一緒にお化け屋敷でおどろかしをされる側になりたいんだけどな……。

 でも、しょうがないよね、おどろかしは夏奈にとっての大切な夢の一つなんだから。

 それにしても夏奈、すっごく張り切ってるけど……ほんとに大丈夫かなぁ〜?

 この前みたいに本気でおどろかしにこられると大変なことになっちゃうから、ちょほほのほなんだからね〜夏奈!


 木の葉小学校でお化け屋敷が開催される、土曜日がやってきた。

 学校へ登校すると、階段や廊下で様々なおばけとすれ違った。

 もちろん、本物のおばけじゃなくて、六年生がおばけに扮している。

 白塗りや血の痕のようなメイクをして手のこんだ衣装を着たり、妖怪に扮した姿も見える。

 一見笑っちゃうようなおばけや、ギョッとするようなおばけもいる。六年生たちは気合バッチリで、とっても楽しそうに感じられた。


「おはよう」


 僕は開かれた教室の扉をくぐり、クラスメイトへおはようの挨拶をした。


「つばさくん、おはよう〜」

「おっす」

「おはよーつばさ」


 家から持ってきたお茶の入った水筒を机の上に置くと、春風さんが喋りかけてきた。


「つばさくん、見た? 学校中におばけがたくさんいたよ!」

「この教室へ来るまでに、色んなおばけと何度もすれ違ったよ」

「六年生のみんな凄いよね、メイクがリアルでホラー映画にでてきそうだったよ」

「血の痕とか本物みたいだよね」


 こくいとまひろが話しながら近寄ってきた。


「なんだかお祭りみたいだよな、面白くなってきたぜ〜」

「六年生のみんなは朝早くから学校へ登校して、お化け屋敷の準備をしてくれてたんだねぇ」

「お化け屋敷は六年一組の教室から始まって、六年三組の教室まで続いてるんだって」

「結構な距離があるねぇ」

「早く始まってくれねぇかな〜」


 教室へ担任の七瀬先生が入ってきた。


「みんな〜おはよう!」

「おはよう〜先生おばけ見た? いっぱいいるよ!」

「見たよ〜六年生のみんな気合入ってるねぇ」

「先生もお化け屋敷に行くの?」

「先生は色々と準備があるからね〜」

「えぇ〜先生もお化け屋敷に入ってよ!」

「一緒に行こうよ〜!」

「先生って怖いの平気なの?」

「時間に余裕があったら入ってみようかなっ」

「絶対だよ〜」

「七瀬先生きっと怖がりだよ」

「ほんとに〜? 全然怖がらなさそうだよ?」

「先生の顔を見て、おばけの方がおどろいたりして」

「言えてる言えてる〜」

「私、怖いの苦手だから先生と一緒に入りたいなぁ」


 クラスメイトのみんなと七瀬先生の会話が弾んでいた。

 七瀬先生は朝の会で、六年生が開催するお化け屋敷について説明をしてくれた。

 お化け屋敷のコースは春風さんの言っていた通りで、三つの教室の中を順番に通って出口を目指すといったものだった。

 お化け屋敷の参加賞として、教室の出口で六年生からお菓子を受け取れるとの事だった。

 参加賞としてお菓子が貰えると聞いたクラスメイトのみんなは、テンションが爆発したかの様に一気に上がった。

 教室は歓喜の叫びで溢れかえっていた。

 木の葉小学校のチャイムが校舎内へと鳴り響いた。

 ついに……六年生が作り出すお化け屋敷の開演だ!

 

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