第14話 嬉しくない昇進

池田屋前に着くと、沖田さんは刀に手をかけた。私は刀を抜くと、刀を裏向きにひっくり替えした。息を殺し、私と沖田さんは池田屋に乗り込んだ。店主に見つかる前に、2階へと駆け上がた。刀を構え、沖田さんと目配せした。沖田さんは中の様子を伺うと、障子をあけ、乗り込んだ。沖田さんが秋の風に足を乗せて、軽やかに畳を踏み込み、刀を抜いた。


「御用改めである。抵抗したら、切っちゃうから覚悟してね?」


沖田さんの後ろでその姿に見惚れていた。美しい太刀筋。最早スチル化して欲しいレベル。私は沖田さんに向かう浪士を見て、後ろから走り出し、3人の敵に脇腹を刀で殴り付けた。


「あれ?さっきまで刀身ふるわせて、攻撃すらまともに出来なかった可愛い子だと思ってたのに、男3人をいきなり刀で吹っ飛ばすなんて、勇ましすぎない?まるで狼みたい」


私は足をまげ、出来るだけ体制を低くし、刀を耳元で構えると、呼吸を深く吐いた。私は浪士の前で声を低くし、口調を荒くした。


「ご冗談を、俺が可愛いなんてやめてくだせぇ……さっさと来い。俺は沖田さんに傷1つ付けさせやしねぇ……!」


私の叫びに足取りを狂わせた浪士たちが足をすくめた時を狙い、私と沖田さんは走り込んだ。


浪士たちはあっとゆう間に次から次へとなぎ倒され、私と沖田さんは浪士の中の1人をいけどりにし、連れ帰ることとなった。


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昼下がり、私と沖田さんは前川邸の西の蔵横に幹部と一緒にいた。幹部たちは各々の席に座りながら、近くの隊士と雑談話に花を咲かせている。私はふと私の横に座る中沢さんをみた。この幹部会は各隊の隊長と、局長、副長が参加する会であり、私や中沢さんは普通なら参加する事はできないはずなのだ。しかし私は主人公補正がかかっているからであろう。私は1番隊副長として参加できている。しかし、中沢さんはどうして参加しているのか、疑問でならなかった。私が中沢さんに話しかけようとすると、襖が開いた。土方さんは目の下にくまを携え、不機嫌な表情で部屋に入ってきた。土方さんを見るなり近藤さんは話しかける。


「トシ、古高の様子はどうだった?」


土方さんは近藤さんの問いにひとつため息を付いて答えた。


「風の強い日に京に日を放つつもりだそうだ。本日中にでも奴らのアジトに乗り込み、陰謀を阻止するつもりだ」


周りがざわめいた。要するに戦を行うと言うことが告げられたのだ。各々に何か呟く中、私の肩を叩く者がいた。無邪気な笑顔。甘いフェイス。そして王子様の様な綺麗な声が耳に柔らかく届く声。


「お手柄だね」


その甘くスイーツのような彼に私は変な予感を覚えた。たまに褒めてくれたり、気にかけてはくれてはいたが、軽く肩を叩く程の関係性ではない。これは主人公補正なのか?私が首を傾げると、土方さんがこちらを見た。


「今回の活躍は、1番隊隊長の総司と副隊長 観柳斎の手柄だ。観柳斎には、これから副長助勤として、俺の補佐をまかせる」


私は耳を疑った。副長助勤…かつてその座に座った者は、「隊長職」を担う事になってきた。これに着いたと言うことは、本来の歴史通り、「5番隊隊長 武田観柳斎」は確定になった。私は何もいえず、ただ土方さんの言葉にあっけに取られた。


「副長助勤かぁ、てことは武田さんも僕たちと同じ隊長クラスになる日も夢じゃないね」


永倉さんは私の顔を見てはくすくすと可愛い笑みで笑った。その姿は正しく白い王子のようだ。しかし嫌な予感しかしない。何かがおかしい。いつもの永倉さんではない。私は愛想笑いをうかべ、正面を見ると、斜め右からすごい視線を感じた。其方に目を向けようとするも、中沢さんが後ろから注意を促した。


「会合中です。気を抜いてはなりません。」


私は中沢さんの言葉のままに口を閉ざし、正面に座る局長と副長をみた。


ーーあの気配はなんだったのだろうか?


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長い会議を終え、私は土方さんの元へと駆けつけた。土方さんの部屋に入ると、おびただしい程の書類の量がそこにあった。私は土方さんの前に座り、話しかける。


「本日付けで副長助勤となりました。武田観柳斎です。よろしくお願いします」


私は頭を下げると、土方さんは頷いた後、口を開けた。


「率直に言おう。観柳斎。俺と近藤さんはお前を隊長格に起きたいと思っている。副長助勤にしたのも、その前段階だ。剣の実力もさながら、お前には文学の才もある。活躍には期待している」


私はこの言葉に悲しみが込み上げた。沖田さんの隊から離れると言うことはつまり沖田さんルートからまた1歩遠のいたという事だ。前回近藤さんルートを打開できたのに、今回は沖田さんから引き剥がされ、土方さんの助勤になった。まさか次は土方さんルートにでもなったというのだろうか。色々めぐらせる中、頭を下げる。


「ありがたいお言葉です」



私は放心状態のまま、土方さんの話を耳に挟む。声はほぼ聞こえなかった。

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