第11話 沖田さんと2人きり!?新選組の改名案を出せ!
前川邸、西の蔵横の部屋。私と沖田さんは2人で机に向かい合い、紙を睨み合っていた。壬生浪士組の改名案…未来から自分が知っている名前に決まっている。「新選組」に改名すればいいだけの話。でも、多分そんな容易い理由では沖田さんを説得は無理だろう。私は筆手にし、顎に添えながら考えていると、沖田さんが私の頬に手を伸ばした。
「筆の先がついてるよ」
私の頬に着いた黒い墨が沖田さんの手に染まっていく。私は沖田さんの触れた場所を触れると、鼓動が早いことに気がついた。私は目を伏せるようにそっぽを向く。
「ありがとうございます」
私は横目で沖田さんの顔を見ると子どもをあやすような優しい沖田さんの顔が見えた。私はその顔を見て思わずつられて笑ってしまった。
「沖田さんっていつもその優しい顔で笑ってくれますね」
沖田さんは私の言葉に少し驚くも、紙を見て話し始めた。
「なんでだろうね。君が来た理由とか、一くんと並ぶ剣術を持ってる所とか、僕は君の事、敵か味方か疑わくて警戒しているんだ。でも君の言動一つ一つが何だか幼い子どもみたいで愛らしくも見えるだ」
沖田さんのその表情には冷たい目線は一切なく、ただ暖かな優しい目線があった。それはあの1番隊対私で戦う事が決まった時、心配してくれたあの優しい沖田さんの表情だった。こんな表情、ゲームの世界ではありえなかった光景だった。ゲームの沖田さんは主人公「寺本あかり」にいつも笑顔でただ優しい人だったのにも関わらず、私がこの世界の主人公になって、同じ扱いをされるとずっと思ってた。でも、疑われたり、優しくしてくれたり、時に気づいてるのに気付かないふりして私を傷付けたり……
「変わらず不器用だな……」
私は思い返せばゲームの沖田さんが好きで、ここにやって来たのに、目の前に居る彼を「ゲームの沖田さん」としてしか見ていなかった。彼は今を生きる沖田総司さんなのだ……主人公「寺本あかり」をサポートする役割でもなければ、ただ死亡フラグの未来しかないゲームのキャラクターではない。たった1人の人間なのだ。そんな簡単なことにも気付かず、私は「沖田さんルートを改築」だの「近藤さんルート」だの……彼らをまるでゲームの世界の人間のように扱ってしまった。私は彼の事が知りたくて、昨日の夜の事を口に出した。
「昨晩。私がいるのを知っててわざと酷いことを言ってましたよね。どうしてですか?」
沖田さんが眉をひそめる。
「どうしてそう思うの? 」
「だって沖田さんが人の気配を気づかないほど鈍感なわけないと思うんです。私はあなたをずっと見てきたから」
何度もゲームで見てきた。何度も死ぬ姿を、人を思い背中を押す姿を、プレイする事に心が押しつぶされそうになりながら見ていた。だからこそわかる。あの時の冷たい言葉。私と近藤さんが帰ってきた時にタイミングよく言えるのか。ゲームの補正以外であり得ない。ましてやこのゲームのシナリオ通りの人間ではなく、お互いに感情もある。もうこの世界はゲームじゃないなら、あのタイミングでゲームの補正が掛かる理由がわからない。メインキャラのためにサブキャラがわざわざあのセリフを聞かせるなんて、乙女ゲーム側が近藤さんに私を攻略させようとするようなものだ。ゲーム性としてそんなことはあり得ないだろう。私は頭の奥で耳鳴りのような高い音が響き渡り、映像が映し出された。
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頭の中で靄がかかる。その脳内に映し出された映像には、相手の顔はくっきり見えず、声だけが聞こえてきた。
「■■……俺はあんたと一緒に生きていきたい……でも、それは恋愛感情として言葉で伝えることはできない……だがせめて、この命尽きるまで、あんたを支えられる存在にしてくれ」
悲しげな声で伝えるその男の姿に、私は愛おしさと、虚しさが込み上げてきた。忘れていた記憶の片隅がその時の感情を呼び起こす。
「やだ、いやだよ……なんで、どうしてこうなってしまったの?私はただ……」
ーーあなたとこの#好き__かんじょう__#が通じ合えたら
ーー●●でなければ
ーーあなたを幸せにできたのに…
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「……あかりちゃん?」
私は我にかえり、目を開けて正面を見ると、目の前に沖田さんの顔が見えた。思わず顔が赤らみ、変な声を出して後ろに退いた。よくみたら机に向かい合っていたはずの沖田さんは、私の横で顔をのぞかしていたではないか。私は崩していた足を治して、居直した。
「すみません、ぼーっとしてしまって」
沖田さんは私の顔を見てはクスリと笑った
「君、僕に昔会ったことでもあるの?」
私は少しその問いに戸惑った。さっきのあの懐かしく悲しい映像は、もしかしたら自分が忘れてしまった記憶の欠片なのかもしれない。
「私は沖田さんと以前あったことないはずです。私はこの世界に来た事は今回が初めてなので。でも……」
あの映像で感じた幸せにしたいという気持ち……あの後悔……私が沖田さんを幸せにしたいと思う気持ちと同じ気持ちだった。何度もゲーム内で噛ませキャラとして死ぬ沖田さんを、今度は私の手で幸せにするんだ。
「私はあなたの事をずっと未来で調べて、あなたが幸せになる方法をずっと考えてました。どうすればあなたの未来を変えられるか」
「見た事もない相手に、どーしてわざわざ未来からきて、僕のこと幸せにしたいとまで思えるの?そこまでしたかった理由は何?」
私は自信を胸に口角を上げて答えた。
「私は沖田さんが好きだから」
私はずっと推しとして沖田さんが好きだった。沖田さんルートを自分で開拓しようとするくらい、今でも沖田さんが推しとして好き。だから推しが笑顔で幸せになって欲しい。そこに私の幸せがあるかどうかは分からない。けど、私は沖田さんを幸せにする事が、自分がここに来てやり遂げたい事なんだ。私が答えたあと、少しの沈黙の後、吹き出して笑った。
「あはは、聞けば聞くほど、わからない子だなぁ」
沖田さんのその笑みは何だか小恥ずかしそうで少し嬉しそうな顔をしていた。
「ねぇ、君の話もっと聞かせてよ。未来はどんな世界だったの?」
沖田さんが初めて私に興味を持ってくれた気がした。私は沖田さんの変化に喜びを感じ、声を弾ませた。
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この後何時間も話し込んだ。私の前世の話。沖田さんの過去。たわいも無い話の数々に花を咲かせた。気づけば夜更けになっていて、私たちは結局、新たな選択をした組。「新選組」に改名する事にした。それを明日近藤さん達にも話す予定だ。夜空の星々を見ながら私は剣の手入れをしていた。昨日の夜を思い返せば、近藤さんとこの夜空を見に行ったな……昨日を思えば色んな事があった。沖田さんにわざと酷い事言われたり、傷ついた私を近藤さんが慰めてくれたっけ。本当に凄い1日だったな。色んな思い出がさかのぼる中。ふと近藤さんの言葉が呼び起こされた。
「あかりちゃんを幸せにしてくれる人と一緒になる方がいい」
私を幸せにする人……か……
決断の時は迫っていた。
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