第10話 揺れるあかりの気持ち
「あかりちゃん……?」
障子越しに近藤さんの声が聞こえた。私は小刀を持つ手が緩んだ。障子越しに座り込む近藤さんの影を私はただ見つめていた。
「あかりちゃんは本当に総司が良いのかい?」
私は混乱のあまり口を噤んた。好きな人に拒否をされた手前、沖田さんを諦めないと言いきれない自分がいた。私の身勝手とはいえ、心が傷んだままだ。私が言葉に詰まっていると、近藤さんは優しい声色で私を解した。
「あかりちゃんはあかりちゃんを幸せにしてくれる人と一緒に居る方がいい」
幸せ……私にとっての幸せを頭に浮かべていると、考え込む私の後ろの障子が開いた。近藤さんは私の持つ小刀に手を添えた。
「総司との未来は、身を削ってまで手に入れたいものか?」
私は小刀から手を離すと、近藤さんは私の小刀を床に置いた。近藤さんは放心状態の私の頭を撫でた。
「ゆっくり考えるといい」
私は撫でられた頭の場所を手で触れた。少し暖かくて、気持ちがいい……私は心の中に色々思い浮かんでは、口をつむった。このまま……
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次の朝、新選組の幹部達が集まった。私は沖田さんと中沢さんに連れられ、前川邸の西の蔵まで案内された。近藤さんは私を見るなり目を細めていた。
「たけっちゃん。おはよ」
私は頭を軽く下げては、沖田さんはの後ろにつき、指定された場所へと座った。土方さんが辺りを1度見回してから口を開けた。
「今日の話し合いについてだが、3日前の騒動後、俺達は名を改めることにしたのを覚えているか?」
3日前……9月18日は芹沢さん暗殺事件の日だ。私は翌日の19日に屯所に来た為、その現場を目の当たりにしていないが、現代の知識があっていれば、間違いなくあの日だろう。
(歴史解説参照)
皆さんが言葉を詰まらせていると、山崎さんは手を挙げ、沈黙を破った。
「副長。何日も隊の名を考えていても埒が明きません。ここは1つ、事件翌日に未来から来た武田殿に案を考えていただくのはどうでしょうか。」
山崎さんの提案を聞いて私は目を丸くした。なんで私なのだと。こんな重要な任務ぽっと出の不審者に委ねるのは間違っている。私が口を挟もうとした時、山崎さんは私の顔を見た後、沖田さんに向かって口調強く言う。
「沖田隊長と一緒に」
その場にいたメンバーがいっせいに私と沖田さんを見た。沖田さんは反論の意を示す。
「どーゆー意図かはわからないけど、厄介事を押し付けるのは良くないんじゃない?」
山崎さんは私にこくりと頷くと、優しい目で見つめた後、沖田さんを見た。
「昨日沖田隊長は武田殿の事を信頼していないとハッキリと豪語されました。しかし、同じ隊内で信頼がないのは問題だと考えています……そこで、今回はそのおふたりに新選組の新たな名を1日考えてもらい、親睦を深める必要があると僕は思います」
力強い山崎さんの意志に副長は少し考えた後、腕を組んだ。
「それは良い案だな」
近藤さんがと目に入ろうとすると、土方さんが大声で宣言した。
「総司、武田。お前ら2人を今回の新選組改名案係に任命する」
近藤さんは土方さんの言葉を聞いたあと、首を横に振った。
「しかしトシ、武田殿も色々と困惑している時期だ。こんな事をしたら、彼女はもっと居ずらくなってしまう」
多分昨日の件を隠そうとしているのだろう。昨日沖田さんに酷く否定され、泣いていたとみんなに知られぬよう、あえて分かりにくく発言していた。その反論を土方さんはあっさり覆した。
「総司がいるから大丈夫だ。あいつなら隊のことをよく分かっている。隊のことを知るためにも、お互いに交流していくのも大切だろう」
沖田さんは少し不服そうな近藤さんを見て言い返そうとするも、口が開いたまま言葉が出なかった。皆の反論は一切無い様子から、私と沖田さんが新選組の新しい名前を考える事となった。
【歴史解説】
文教3年9月18日夜に当時の筆頭局長 芹沢鴨さんと、平山五郎さんが内部抗戦により、暗殺されています。平間重蔵さんもその際粛清対象として、暗殺対象だったのですが、逃亡しているとかんがえられています。(異説あるため実際の真偽は分かりません)芹沢鴨さん暗殺後、近藤勇が新選組のおさとなり、皆さんのよく知る体制へと変貌しました。その体制変換とともに「新撰組」の名を改定することになりました。
ちなみに武田観柳斎(歴史上の人物の方)は、明確な日程までは記載されていませんが、文教3年にの後半に新選組に入隊したと考えられています。
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