第30話 発見

 壁に鉄製の配管が何本も走る廊下。両サイドに広がる配管は不規則に広がり、赤々と錆びているがために血管のように思えた。そこを音を立てないように移動しながら河上を探す。


 すると廊下の壁にもたれてうずくまっている者がいる。わたしの通う学校の制服を着ていることから、その者が河上であることはほぼ間違いないだろう。


「・・・何してんの?」


 わたしは河上に問いかけた。


 するとビクリと跳ねて、うずくまっていた顔が、ゆっくりとわたしに向けられる。


「・・・うわ」


 しかし、あからさまに嫌そうな表情をした人物は河上ではなく、あのいけ好かない後輩だった。別に気にしてなかったが、あの時ほったらかしにした後も、案外しぶとく逃げ回っていたようだ。


「うわってなに?」

「あ、何でもない・・・です」


 後輩は申し訳なさそうに目を逸らした。


「・・・この辺で河上のヤツ見なかった?」

「それって、 あの河上 美淮さんですか?だったら知りませんけど・・・」

「・・・わかった。じゃあね」


 用も済んだので再び走りだそうとしたが、相手はそうでなかったらしい。


「あの!河上先輩を探してるなら、私も手伝いますよ!」

「なんで?」

「なん!?・・・・え、えっと実は私も河上先輩のことが心配なんですよ。いろいろ学校ではお世話になったのもありますし・・・・なのでとりあえず私も手伝いますね!名前は猪兎いと かなえです!よろしくおねがいします!」


 やたら必死な猪兎いとに半ば押し切られるかたちで、わたしは河上でない者を横にして再び捜索を開始する。


「三涙先輩はどうしてこんな場所にいるんですか?」

「学校から落ちて、気がついたらここにいた」

「え?・・・あ、そ、そういうこともありますよねぇ・・・はは・・」

「そっちはどうやって来たの?」

「私は・・・いえ、私も先輩と同じで気がついたらここにいたんですよ。さすがに学校からは落ちてきてませんけど」

「そっか・・・」


 そしてしばらくすると、十字路の奥に人影が見えた。


「待って。誰かいる」


 わたしは猪兎いとを引っ張って、廊下の影に身を隠した。

 そしてシルエットが、ふらふらと十字路を照らす電灯の下にやって来る。


「河上先輩ではなさそうですね・・・」


 猪兎いとの言った通りその人物は、ジーパンをはき灰色のシャツを着た男だった。髪はボサボサで、ぼんやりと電灯を見ながらゾンビのように歩いている。


 そして男が十字路の真ん中に来たとき、ギュンとその床がスライドして、上にいた男はたちまち横の方へ転がって行った。


「え!?あの人!」

「逃げた方がいい」

「いや、あの!調べたほうがよくないですか?!」

「必要ない。下手に見に行ったら殺されるかもしれない」

「こ、殺される?!それってどういう意味ですか?!」

「そのままの意味」


 この施設内をしぶとく逃げ回っていた割にずいぶん想像力の無いことを言うものだと、わたしは心底うんざりした。


「とにかくちょっと見てきます。嫌ならそこで待っててください」


 呆れ顔をした猪兎いとは十字路まで走って、男が転がって行った方向を覗いていた。しかし少しするとその場にへたり込み、呆れ顔を青ざめさせて四つん這いのままダラダラと戻ってきた。


 そして後に続くようにして、のっそりと十字路に現れたのは、巨大なローラーを首から生やした鉄塊であった。


 ずんぐりした体に似合わない腕は鞭のように細くしなやかで、その両端には先の男の一部と思われる両腕と両足のみが絡まりズリズリと引きずられていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る