第13話 起死回生

 またたく閃光と殺意の狂騒が暗い部屋を練り歩く。壁の一面を床から舞い散る火花が舐めて、その一帯をほのかに照らす。あかりに照らされるのは枯れた体躯と破砕刃の二つのみで、片や物言わぬ死骸である。


 けれどこの粉砕機が追っているのはソレでなく、もっと活きの良い死ぬ手前。見慣れたクズよりも真新しさを匂わせる、どこかの学校の制服姿をした少女だった。


 少女の足は決して速くはない。だから十字路を曲がったみちの途中にある部屋に潜り込むのは必然と言えた。粉砕機もそれを承知していたのか、少女の身を隠す部屋へと容易に行きついてしまった。


 あとはただ悠然ゆうぜんと獲物を脅し、たまらず飛び出たところを仕留める腹積もりなのだろう。入り口に気を配りながら、わざとらしく中を巡遊しているのだからきっとそうに違いない。


 粉砕機は部屋の角から角へと移り、奥へ奥へと突き進む。そして次の角に狙いを定めた。そこはこの四角形の室内において、最後の角となる場所だった。


 追われた獲物の大体が狩人から距離を離そうとする、だからご多分に漏れず少女もそこで小さくなっているはず。


 粉砕機はその確信を以ってよりゆっくり、じっとりと迫っていく。そして這い寄る閃光が、その少女とおぼしき長靴下を履いた足を捉えた。


 すると、紫電しでんのような鋭い光が床から壁へと走駆そうくして、たちどころに少女の襟元えりもと付近まで達する。とてつもない速度のそれは、音すら一拍遅れを取った。


 粉砕機の手中の車輪から巻き起こる火花が、死を突きつけられた彼女の恐怖に歪んだ顔を照らす。


 かと思いきや、照らし出されたのはその辺に転がる死骸の表情でしかなかった。追って来た少女とはあまりにもかけ離れた顔貌がんぼうである。


 グオオオォォォォオオオ!!


 予想を裏切られた憤怒の声が粉砕機から発せられる。そして烈火の片手を更に一段と唸らせたかと思えば、その死骸の首がいとも軽々しくふっ飛んだ。


 放物線を描きながら死骸の山に加わる首に続いて、粉砕機は即座にきびすを返して退室する。その姿はどことなく、自分のミスを取り返そうと躍起やっきになっている風だった。


 ドタガタと騒々しい音が暗い部屋から遠ざかっていき、無残に首のねられた制服姿の死体だけが取り残されていた。しかしそれはモゾモゾと蠕動ぜんどうしたあと、寂しくなった襟元えりもとからスッポンのように頭部を生やした。


 生え変わった頭部は左右に振り、バサついた髪につくコンクリートの削りぶしを乱雑に払う。するとその後ろにも首の無い体がいたようで、起き上がりざまに言葉を発する。


「助かったの・・・?」

「うん」


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