第2話 8:00
安心感をもたらす布団から飛び起き、朝の
という一連の流れは今までの経験上、15分、遅くとも20分以内には完了する。そこから更に、二輪の足を10分ほど走らせてやれば、目的の学校にはたどり着く。
しかし、わたしの体はそれらの計画にひどく否定的である。そのため一連の動作に入る前には必ず胴、足、頭の説得をしておかなければならない。それには10分で済むこともあれば、1時間要することもあった。
つまりは学校の門限に、なかば間に合わないことが今ここで約束されたわけだ。
「さいあく・・・・・」
ぽつりと一言、愛しき布団に
チロリン♪
布団と肉体が同化していく途中で、さきほど枕元に打ち捨てた板状の目覚まし時計が鳴った。ちょうど片手サイズのそれは、時間を確認する以外にどこかの誰かと連絡できるスマートな機能が備わっているらしく、メッセージの受信時には決まってこうした間抜けな音が出る。
【
手中の画面にそんなメッセージが表示されている。送信元は我が父。わたしにとって布団の次くらいに必要な存在だ。
【のーぷろぐれむ】
問題など、とっくに解決している。
今のわたしにできること。それは全ての責務を意識の外へと放り投げ、この身を包む布地と共に
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この廊下を訪れるのは何年ぶりだろうか。旧友を出迎えるように立ち込める、
そして私はうずきだす
「おぉ!お久しぶりです」
声のした方へ振り返ってみると人の頭ほどある眼球が、私と同じ目線で立っていた。
「はい、お久しぶりです」
彼はここへきた当初、道案内をしてくれたイサキさんだった。非常に目が良く、この暗い廊下でも
床から伸びた触手のような肉に繋がり、先端の眼球だけが鎌首をもたげて私を覗いている。その姿は、遠目で巨大な肉
「こんな所で珍しいですね。なぜ廊下にこられたのですか?」
質問する彼の細い血管に覆われた白身が、ツヤツヤと照明の光を反射している。
そういえば道案内をしてくれたときも、初対面でありながら今みたく無邪気に目を輝かせて、根掘り葉掘り聞いてきた好奇心
「ちょっと用があるんですよ」
「ほほぉ、面白そうですね。ついて行っても構いませんか?」
案の
「それはやめといた方がいいかと思います」
「理由をお聞きしても?」
「・・・実は会長から口止めされているんですよ。だからすみません」
さすがの彼も会長という言葉には弱かったようで、すんなりと引き下がった。
「それならますます気になるところですが・・・やめておきましょうか。それにしても会長から直接仕事を頂けるなんて、偉くなられましたね」
「いえ自分なんて、あなたよりも経験の浅い
「そう
高鳴る感情を表すようにブルブルと眼球は体を震わせる。
「ありがとうございます。・・・少し早いですが、これで失礼します。すみません。今度はお互いに暇があるときにでもゆっくりと話しましょう」
そう別れを告げるも、眼球は行く手を
「あぁ。それはそうと、この辺りで女の子を見かけませんでした?」
「・・・女の子ですか?見てませんよ」
「あまり見かけない年頃の人間なので目につくとは思うのですが、逃げ足のもう速いこと、速いこと・・・」
「そうですか・・・」
「もし先に見つけたら、取らずに教えてくださいね?」
「・・・そんなことしませんよ。
「なら良かった!ではまた今度!」
そう言って、先陣をきるように眼球は廊下の暗がりへと姿を消した。
「女の子・・・」
去っていく眼球を見届けると、私はその場で立ち止まって得られた情報を
万が一それが知り合いであったなら私はどうしたらいいのか。それを確かめたい衝動にかられるが、知りたくない気持ちもある。しばしその思考の間で揺れていると、左腕に何かが勢いよく
見るとそれは少女で、
「た、助けて下さい!!変な怪物におそわれてるんです!」
私はひどく驚いたと同時に
少女は前と後ろの暗がりへ繰り返し
すると、反応がない自分を見下ろしている存在に違和感を感じ取ったのか、そこで少女は初めて私の顔を見た。
「・・・ヒッ!」
仮面越しに映る少女の顔が恐怖によって彩られる。
そして彼女はすぐさま逃げようとしたが、足がもつれたために尻もちをついてしまった。
「いや・・・やめて・・・」
それでも後ずさる少女は後ろの壁に両手をついて、動くはずのない
私はその憐れな子どもに近づきながら、ゆっくりとシャツに隠れたナイフの
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