自殺未遂

 

自殺未遂

 朝、彼氏のタカシと学校に行く途中、道端で頭から血を流して倒れている女性を見つけた。多分、近くのビルから飛び降りたのだろう。すぐさまタカシはその女性に近づき、声をかけた。


「大丈夫ですか、大丈夫ですか」


 しかし、返事はない。すると、タカシは女性の脈を測り始めた。


「どう、大丈夫?」


 私が訊ねると、タカシは不安そうな顔をして、こう言った。


「ちょっとヤバいかも……」


「それなら、早く救急車呼ぼう」


 私がそう言うと、タカシは私を制止した。


「ちょっと待って」


 そう言うと、タカシは、背中に背負った竹刀を下ろし、袋から取り出した。そして、倒れている女性を殴り始めた。


「タカシ、何やってるの?」


 私は恐る恐るタカシに訊ねた。


「何って、助からないから殺してあげるんだよ」


「やめてよ、そんなこと!!」


「どうして、美緒は僕を止めるの?僕はただ彼女を苦しまずに逝かせてあげたいだけなのに。彼女はもう助からない。それに、今ここで殺せば、救急車を呼ばなくていいし、節税にもなる」


「私は、その女が死のうがどうでもいいの。でも、タカシは警察に捕まって欲しくない。タカシと離れ離れになるのは嫌」


「美緒、僕のことをそんなに大切に思っていてくれたなんて……」


「私には、タカシしかいないわ」


「僕もだよ、美緒」


 それから、私たちは自殺未遂を起こしたクソ女の救護そっちのけで、抱き合って熱いキスを交わした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺未遂   @hanashiro_himeka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ