第3話 悲劇の使役者

 彼女が俺に「一緒に行こう」と一声かけると、次に気づいた時には俺たちは郊外のさびれた墓地に立っていた。


「あっはは!大成功!」

 イマイチ状況を掴めていない俺に反して、彼女は飛び跳ねて喜んでいる。

「やるわね、魔人!やっとあの牢獄から出られたの」

 もっと喜びなさい、と言うので、俺もとりあえず彼女の真似をして飛び跳ねてみる。

「何やってんの気色悪い。不愉快だからやめて」

 彼女と俺は飛び跳ねて喜ぶのをやめた。


 とりあえずここはどこなのだろうと俺が考えていると、彼女は「そんなことも分からないの?」と前置きをしたうえで説明してくれる。

 それによると、俺たちは城の中にいたらしい。彼女が「ほら、あれ」と指さした先には二本の大きな尖塔がたっている、ひときわ目立つ建物があり、その周りを高い壁でぐるりと囲われている。そしてさらにその周囲に街並みがある。城下町というやつだろうか。

「私たちはあのから出て来たの。あなたの能力ちからを使って」

 能力?何のことだ?

「はぁ。いちいちめんどくさいわねぇ。大体ここまでの会話の流れで察しなさいよ。あなたは全能の創造者、あるいは始まりのクソ野郎、あるいはただ”神”と呼ばれているものの搾りかす。もとい魔人なのよ。あなたは一人じゃなぁんにもできない。だけど。あたしが求めれば」

 ……なんだってできるのよ。そう言って彼女は俺の胸を小突いた。なるほど。そういうモノなのか、俺は。そういえば今日、しゃべった時も彼女が「しゃべっていいから、どうして怒っているのか聞いてきて」としたからだった。

 あれ?というか結局なんで彼女が今日は特別怒っていたかを聞いていないような。俺がふと、そう思っていると。

「ちぇっ!もうバレたみたい」

 彼女は舌打ちすると城の方向にある空を見上げている。俺もつられてそっちを見てみると、なにかが数十程度、飛んでいる。星明りに照らされたそれらは、大体人間くらいの大きさをしていて、さらに背中やら足から翼が生え、あるいは腕であろうところが翼になっている。どうやらその翼で飛行しているらしい。俺の使役者は、「鳥人や竜人やらの翼人たちね。気をつけなさい。彼らは夜目が効く」と、補足してくれる。しかし、警戒を促すその言葉とは裏腹に彼女は状況を楽しんでいるかのようで、その目はいたずらっぽく輝いている。


「魔人。もう一度飛ぶわよ」

 彼女は言うや否や懐から地図を取り出し、その中のある地点を指さす。そして、

「ここに連れて行って!」

 そう叫ぶと、再び風が巻き起こり、俺たちを包んだ。



 一方、時は少しさかのぼり、高い壁の城の中で。ある報告を持って息せき切って塔の階段を駆け上がるものがいた。


「注進にございます女王陛下!姫様が見当たりません!」

「……うるさいぞ、兵士長。せっかく寝ていたというのに。」

「はっ。申し訳ございません!」 


 城のひときわ高い尖塔、その高層にある寝室。「女王」と呼ばれた女は寝台に横たえていた体を起こし、レースの天蓋カーテン越しに彼女に直属している近衛兵を一喝する。


「……あの子はもうすでに城外にいるようだな」

「っ!左様にございますか…。申し訳ございません、わたくしの目が行き届かず…。いかなる処分も覚悟しております」

 うなだれる兵士長に対して、女王は「良い良い」と鷹揚に答える。

「そなたらが気にしていたところで、あの子がその気になればいつでも抜け出すことはできた。その時がたまたま今日だった、というだけのコトよ」

「し、しかし、姫様がいなくては…。」

「私が良いと言っておるだろう。案ずるな。そんな時間があるのだったら、・・・北東の墓地を探せ。あの子はと共に現れるだろう」

「?はぁ、・・・陛下、お恐れながら、アレ、とは何のことでございましょうか?」

 兵士長の質問に、女王は一瞬薄笑いを浮かべるが、天蓋越しの相手には見えない。


「決まっている。・・・だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る