第2話 世界の成り立ちと俺の立ち位置
「ようく、聞いておきなさい」
彼女はそう前置きをしてから、俺に話し始める。
この世界は一人のクソ野郎の意志で作り出されました。
そいつは初め、何もないところにいました。その、何もないというのは文字通りの意味であって、生き物だとか石ころだとかはもちろんのこと、空も大地も、なんだったら上だとか下だとかそういった区別もなく、あえて言うなら、そいつと、現在だけがあったそうな。
無限ともいえるくらいに
創造者もそうして移ろいゆくものに囲まれて、一旦は「良し」とし、これらの流れを
ただ、そいつはそこで満足できませんでした。一人遊びの箱庭づくりには鑑賞者がいる。そう思ったそうな。もしくはその枯れ山水に侘しさだとか寂しさだとかを感じたのかもしれません。そこで次に生き物を作り始めました。植物も、動物も、そして人間やそれに類する亜人たちも作りました。それらは全て同じぐらいの時期に作られ、その大きな岩の上、つまりこの大地に放たれました。そして、生まれて、死んで、大体なんだかいい感じの数に落ち着きました。
「そうして今に至るってわけ」
一息にここまで語ると、彼女は俺に一瞥をくれる。感想を求められたのかと思い、俺が「中々詳しく知っているのだね」と答えると、彼女はふん、と鼻を鳴らす。
「これぐらいのことは基礎教養よ。その辺の子供だって知ってる。そうじゃなくて、あたしが言いたいのはそんなクソッタレのクソの上でクソが躍ってるのが気に食わないってコトよ。
「だってそうじゃない。知らないやつの気まぐれで世界が作られて、お互いに争い合って奪い合って憎み合って愛し合って。それもすべて元は同じだなんて、バカバカしい。バカバカしすぎて自殺したくなる。だけど、そうしたところでその辺の砂や土に紛れて一緒になるのならば、それもまっぴら。こんな状況で、みんなどうして平気で生きていられるのか、あたしには皆目理解できないわ!」
そう言う彼女の気持ちも、俺には理解できなかったのだが、彼女は「まあ私も理解してもらおうと期待もしてないから」と
「それはそれとして、」と、彼女は先ほどまでとは打って変わって今度はにやにやしながら言葉をつなぐ。
「あなた、魔人なんでしょ?ああ、いえ、答えなくてもいいわ。あたしはなんだって知ってるんだから。創造者が世界を自分の体から切り出した後に遺った部分。私たちが排泄物であれば、あなたは搾りかす。どちらが上等な存在なのかは一考の余地もあるかもだけれど、今はそんなことどうでもいいわ」
べらべらとまくしたて続けるのを俺は黙って聞いている。その様子をどう解したのかは分からない。彼女はただこう言った。
「私と一緒に行きましょう。魔人よ」
彼女の声とともにどこからか風が吹き周囲を包む。気が付くと俺たちは星空の下、つまり独房の外の世界に立っていた。
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