第23話ひまわり
親父の家の片付けも終盤になった。幸い今日は曇天で、蒸してはいるが気温は高くなかった。がらんとなった部屋に掃除機をかけて雑巾がける。汗があごからしたたってたたみに落ちた。
サッシのゆがんだ窓に座って休憩する。こんなとき、ばぁちゃんはいつもあの団扇であおいで応援してくれたのに。
感傷的になってもしかたない。なにもかもがしかたない。そうやって飲み込んできた。ばぁちゃんにもなにか事情があったのだろう。うそをつくような人ではなかったから。
元栓やブレーカーを落として鍵をかける。次に来るときは引き渡しのときだ。予想より早く終わった。
菩提寺の入り口には花壇があって、手向ける花を忘れた人は持って行っていいことになっている。花のことはわからない。だけど、種類はめちゃくちゃで、種をてきとうにぶわーっとまいたことだけはわかる。このなかで唯一わかるのはひまわりで、咲きはじめたところだった。
花壇からもわかるように、住職は風変りなんだろう。葬式も納骨も、金も時間も余裕もなにもかもがないからなにもいらないしできないと僕が言うのにも嫌な顔もせずいてくれた。今日は納骨だ。預けていたのを受け取って、住職と墓まで行く。
「お父さんは毎月、お母さんの祥月命日前後には欠かさず来てらしてね。まじめないい人でしたね」
墓の下が開いた。あれが母かと思う間に、職人の手が伸びてきた。壺をぼんやりと渡す。
「となりに置いてあげてください」
住職がおだやかに指図している。コンクリートに固められた四角い箱の中に、壺がふたつ並んだ。分厚い石でふさがれるのを、違う次元のことのようにながめた。言われるままに火のついた線香の束を墓の前に置く。風がないからその場に煙がのぼる。香りが強い。読経が蒸した空気の中にいんいんと響いた。
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